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竹林軒出張所

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『法医学者たちの告白』(ドキュメンタリー)

法医学者たちの告白
(2024年・NHK)
NHK-総合 NHKスペシャル

現代日本の司法制度は救いようがないのか

『法医学者たちの告白』(ドキュメンタリー)_b0189364_08431625.jpg 遺体を解剖してその死因を究明する仕事を行っているのが法医学者と呼ばれる人たちである。遺体を解剖することで、当初想定されていたものと異なる原因で死んだとわかるケースもままあり、自然死だと思われていたものが殺人だったというようなことがあり得る(またその逆もあり得る)ため、犯罪捜査の上ではきわめて重要な仕事である。
 ところが、かなり以前から指摘されてきたように、日本には法医学者が少なく、そのために必要な解剖が行われていないという状況がある。小説『チーム・バチスタ』シリーズの著者である海堂尊などもそれを訴えてきた一人で、多くの殺人が自然死として扱われているという主張を行ってきていた。こういう問題意識が、小説やドラマを通じて表明されてきたことから、法医学者が少ないという問題は少しずつでも改善されつつあるのかと思ったが、現実はさにあらず。いまだに日本に法医学者が少ないという状況は変わっていないようである。
 このドキュメンタリーでは、数人の法医学者に密着し、日本の遺体解剖の問題にスポットを当てている。そこで明らかにされるのが、法医学者の数が少なすぎるため遺体解剖が間に合っていないこと、さらには法医学者の立場が検察・警察寄りにされてしまい中立を保ちにくい状況が生み出されてしまうことなどといった現状である。特に中立を保ちにくい状況では、予断や偏見が入ってしまい真に科学的な調査ができなくなるため、遺体解剖の客観性が大きく損なわれることに繋がる。これでは法医学者が何のために存在し、何のために遺体解剖を行っているのかがわからなくなる。法医学を志望する人間が少ないのは、そのあたりにも原因があるのではないかと感じる。
『法医学者たちの告白』(ドキュメンタリー)_b0189364_08432086.jpeg 同時にハワイに拠点を移している日本人法医学者についても取材し、米国の法医学者のあり方と日本のあり方の大きな違いが紹介され、あわせて日本のシステムの欠陥があぶり出される。米国では、「第三者的な法医学者」という地位が保証されており、そのため死体発見現場に法医学者が現れるまで、警察と言えども死体に触れることができないらしい。同時に法医学者は、解剖による所見を検察側、弁護側に客観的事実として知らせるだけの役割しかなく、それがために捜査に取り込まれることがないという。さらに言えば、法医学者の社会的地位も高いというのだ。この点だけでも米国のシステムには見習うべきことが多いと感じる。
 もっとも、法医学者が注目を集めるようになって20年以上もアンタッチャブルな領域であった上、保守性の権化みたいな司法界や警察、医療界が急速に変わるとも思えず、今後の改善はまったく期待できないのではないかと、このドキュメンタリーを見ながら感じていたのだった。現状維持こそ最善と考えているかのような超保守主義があらゆる分野にはびこって、それがために凋落を続けている現代日本の縮図が、ここにも現れているような気がする。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『きらきらひかる(ドラマ)』
竹林軒出張所『アンナチュラル (9)(ドラマ)』
竹林軒出張所『アンナチュラル (10)、(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ジェネラル・ルージュの凱旋 (1)〜(12)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ナイチンゲールの沈黙(ドラマ)』
竹林軒出張所『アリアドネの弾丸 (1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『裁判所の正体(本)』
竹林軒出張所『騙されてたまるか 調査報道の裏側(本)』

by chikurinken | 2024-09-13 07:43 | ドキュメンタリー
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