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竹林軒出張所

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『鍵をあける』(ドキュメンタリー)

鍵をあける 虐待からの再出発
(2023年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

重度障害が作られていたという事実は重い

『鍵をあける』(ドキュメンタリー)_b0189364_08452944.jpg 2016年に起こった相模原障害者殺傷事件を承けて、神奈川県が県内の障害者施設で不適切な扱いがないか調査した結果、県立中井やまゆり園で、監禁や拘束が日常的に行われていることが判明した。
 それに伴い同施設では、施設内部をオープンにするとともに、外部の福祉施設関係者などを入れるなどして、改善に努めることになった。
 監禁や拘束が必要だったのは自傷行為や他傷行為が多かったためというのが中井やまゆり園側の言い分で、実際に職員に対して暴力行為をはたらくような入所者もいて、このドキュメンタリーでは、その様子も映像に捉えられている。一見、施設側の対応に妥当性があるかのようにも思えるが、その後、他の施設で行っているような、監禁・拘束のない処遇を実践してみると、意外に入所者の暴力行為は減って、むしろ秩序が維持されるようになっていく。基本的なスタンスは、入所者の人権を守った上で彼らの立場に立って、対話し対応するという程度のものだが、職員側の姿勢が変わるだけで、徐々に状況が改善していくことがわかる。
『鍵をあける』(ドキュメンタリー)_b0189364_08453656.jpg このドキュメンタリーでは、2年間ほど施設内の状況をモニタリングしているが、それまで処遇に困り監禁・拘束していた入所者が、やがて外の世界に出て、作業所に通い、人並みの日常生活を送れるよう変わっていく様子が映し出されている。つまるところ、この施設内の重度障害が「作られたもの」だったということが明らかになっていくのだった。
 こういうような社会や集団・コミュニティが個人レベルの問題を生み出しているという状況は、何も障害者施設に限らず日本中の至るところにあるわけで、社会が個人を抑圧する姿の典型が、この作品を通じて垣間見られたわけである。したがってある意味、この事例が社会の鏡であって、超一級のケーススタディにもなっていると考えられるわけである。長期に渡る地味な取材を通してこのような事実が捉えられたということを考えると、このドキュメンタリーの価値が一層高まり、その重要性がよくわかるというものだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面(本)』
竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (6)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『チョコレートな人々(映画)』
竹林軒出張所『ルポ 死亡退院(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『学校の「当たり前」をやめた。(本)』

by chikurinken | 2024-09-11 07:45 | ドキュメンタリー
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