マサヨばあちゃんの天地
早池峰のふもとに生きて
(1991年・NHK)
NHK-総合 NHKスペシャル(時をかけるテレビ)
ワイプなんか要らん このブログには毎日100〜150程度のアクセスがあるが、たまに異常にアクセス数が増えることがある。大抵の場合、あるドキュメンタリーが再放送されて、そのドキュメンタリー作品に関心を持った人が、たまたまここでその作品を紹介していた場合にその投稿にアクセスするというわけである。
先日同じように、やはり突如アクセス数が500を超えたことがあり、そのときにアクセスを集めていたのが映画の
『タイマグラばあちゃん』だったため、この映画がどこかで放送されたのかと思ったが、実は、直前に放送されたのは『タイマグラばあちゃん』ではなく、そのオリジナルと言えるNHKスペシャル『マサヨばあちゃんの天地』だったのだった。実は僕自身、このNHKスペシャルをもう一度見たいと思っていたが、このときに放送されることを事前に知らなかったため、結局見逃してしまった。そのことをアクセス数の急増で思い知らされたのだった。もっともその後、NHKプラスで「見逃し配信」として公開されていることを知って結局見ることはできた。アクセス数の急増がなければ気付かなかったかも知れない。
このドキュメンタリー、1991年のマサヨばあちゃんの生活に密着した作品である。ちなみにこのマサヨばあちゃん(向田マサヨさん)だが、戦後、岩手県中部の早池峰山の麓、タイマグラというところに数軒の家族とともに入植(実際は夫に嫁入り)して農業を営んできた人である。厳しい自然の中で、その風土に溶け込みながら農業に従事し、そこで採れた作物を使って味噌や豆腐を作ってきた。おそらくそれを売って生活の糧にしてきたのだろう。入植してきたときは数件の家族がおり、いずれは小学校の分校を作ろうと語りあっていたらしいが、その後1家族いなくなり、また1家族いなくなりという具合にこの地を去っていき、1964年以降はマサヨさんの家族だけになった。向田家には数人の子どももいたが、彼らもやがてこの地を去り、夫の久米蔵さんと2人暮らしが続いていた。しかしその夫も数年前に亡くなり、撮影時はマサヨさんだけの一人暮らしになっていた。
このマサヨさん、一人暮らしになっても、これまでと同じように地に足を付けた暮らしを続けていた。農作業の他、味噌と豆腐作りも続けていた。僕自身、最初にこの放送を見たときにもっとも関心を持ったのが味噌作りの風景だったのである。やはりこれがかなりインパクトを残したようで、放送後もダンボール4箱分のお便りがNHKに寄せられたそうである。この番組を総括すると以上のようなところに落ち着く。
今回このNHKスペシャルが放送されたのは、『時をかけるテレビ』とかいう番組枠で、司会の池上彰とゲスト(この回は小雪)が案内役としてこの番組を紹介するという企画であった。オリジナルの番組自体は、部分的にカットされることもなくまるごと放送されたためその点での不満はないが、終始、池上と小雪の顔がワイプで画面に表示され続ける、しかも彼らが放送中に何かをずっと話し続けている様子が映し出される(副音声では彼らの語りも放送されたそうだ)という具合で、元の番組に対する敬意を欠いているのではないかと思わせるような演出であった。過去の番組を放送する似たような趣向の番組はNHKにこれまでもあったが(『プレミアムカフェ』や『ザ・ベストテレビ』など)、少なくとも元の映像に、番組タイトル以外の何かを挿入するということは断じてなかった。画面の中に別の素材を入れるなどというのは、元々の作品に対して実に失礼な行為である。不快以外の何ものでもなく、こういう演出は即刻やめるべきである。しかもそれが他者の顔色を窺うかのようなワイプとくれば不愉快さも極まる。NHKの製作担当者は、そういうことすら理解できなくなってしまったのだろうか。このオリジナルの番組が放送されてからの30年間は、NHK局内の質も大幅に低下させたようである。嘆かわしい。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『タイマグラばあちゃん(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『タイマグラ通信(本)』竹林軒『2004年の5本:ドキュメンタリー』竹林軒出張所『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『地方発ドキュメンタリー(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『消えた故郷へ帰るとき(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『山懐に抱かれて(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『五島のトラさん(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『睦子ばあちゃんと花畑の四季(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ベニシアさんの四季の庭(映画)』