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竹林軒出張所

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『1944 絶望の空の下で』(ドキュメンタリー)

新・ドキュメント太平洋戦争
1944 絶望の空の下で
(2023年・NHK)
NHK-総合 NHKスペシャル

なぜちびちび放送するのだ

『1944 絶望の空の下で』(ドキュメンタリー)_b0189364_08210177.jpg NHKスペシャルの『新・ドキュメント太平洋戦争』というシリーズ、これまで1941年版、1942年版、1943年版と3回放送されているが、今回はいよいよ1944年版である。これまでのシリーズ同様、太平洋戦争時の日本国内の様子、さらには戦場の様子を、当時の人々の個人記録(この番組ではこれを「エゴドキュメント」と呼んでいる)を通じて、記録映像(カラー化されたものもある)を交えながら紹介するという主旨であり、当時の人々の生々しい思考と当時の空気感を窺えるようになっている。
 この回では、米軍が来襲し激戦になったサイパン島の住民、東京で兵器工場に動員された市民などの手記が紹介され、戦局の悪化が市民にも感じられるようになりつつある状況が窺われるようになっている。
 1944年7月にサイパン島が米軍の手に落ちるとと、市民の間でも本土爆撃が現実的なものとして受け止められるようになり、44年の後半になると、実際に東京郊外の飛行機工場が爆撃を受け犠牲者が出る。番組の中では、サイパン戦で父母を殺された10歳の女子の手記が紹介される他、その飛行機工場の空襲で命を落とした若い女性やその友人の手記も紹介され、ストレートに痛ましさを感じる。また「特攻」に駆り出された兵士の手記も登場し、周辺が慌ただしくなって、戦争がいよいよ市民の身近になっていく当時の雰囲気が詳細に伝えられる。
 太平洋戦争最終年の1945年になるとさらに悲惨な状況が現れるのは必至だが、それについては来年の(おそらく)シリーズ最終作に持ち越されるようだ。
『1944 絶望の空の下で』(ドキュメンタリー)_b0189364_08205661.jpg なおこのシリーズ、1年に1本ずつ放送され、過去4年に渡ってちびちび放送されているが、こういうやり方もいかがなものかと思う。シリーズであるからには、少しずつ小分けにするよりも、ある程度まとめて放送するのが筋ではないのかと感じる。これは『坂の上の雲』の放送時にも感じたことだが、シリーズであるにもかかわらず、年に1本ずつで何年も持ち越すなどというのは、決して誉められたスタイルではないと思う。特にこの番組を好んで見るような年配の人にとっては「来年のこと」は決して確実なことではないのである。それは、戦争の生の語り手たちが毎年どんどん減っていることからも窺われるわけで、何もそれを番組の方法論を通じて再確認させなくても良いわけだ。こういう奇を衒った放送様式は、見る側の人間が侮られているような気持ちさえしてしまい、NHKにはものごとに対してもう少し真摯に対応してもらいたいと感じる。そういう不快な気持ちにもさせるドキュメンタリーであった。内容がそれなりに良くできているだけにもったいない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『1942 大日本帝国の分岐点(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『1943 国家総力戦の真実(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“玉砕”の島を生きて(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『昭和史 1926-1945(本)』
竹林軒出張所『特攻 〜なぜ拡大したのか〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『名前を失くした父(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 21(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 13(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 12(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実(本)』
竹林軒出張所『カラーでみる太平洋戦争(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『鬼太郎が見た玉砕(ドラマ)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『「坂の上の雲」のドラマ版を見た』

by chikurinken | 2024-08-23 07:20 | ドキュメンタリー
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