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竹林軒出張所

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『私が愛したウルトラセブン』(ドラマ)

私が愛したウルトラセブン(1993年・NHK)
脚本:市川森一
演出:佐藤幹夫
音楽:宮川彬良
出演:田村英里子、松村雄基、日向薫、仲村トオル、香川照之、佐野史郎、金子美香、田口トモロヲ、中島陽典、ライオネス飛鳥、梨本謙次郎、布川敏和、塩見三省、別所哲也、天本英世、財津一郎、鈴木清順

サービス精神に溢れたユニークなドラマ

『私が愛したウルトラセブン』(ドラマ)_b0189364_08283184.jpg 1967年に放送された空想特撮シリーズ『ウルトラセブン』の製作事情を明かしたドラマ。製作事情を明かしてはいるが、その中にフィクションをかなり盛り込んだ上で1本のドラマ作品として作り上げており、ドラマとしての完成度は非常に高い。今回見るのは、初放送時(1993年)と再放送時に続いて3度目である。
 『ウルトラセブン』で「アンヌ隊員」を演じた菱見百合子(田村英里子)をドラマの主人公に設定し、バイト学生として撮影所に入ってから、そのまま『ウルトラセブン』撮影終了まで現場を見届けるというのが中心的なプロットになっている。もちろん製作側の事情も語られ、そちらは、脚本担当の金城哲夫(佐野史郎)と上原正三(仲村トオル)を中心に描かれていく。金城哲夫が円谷プロを去っていく場面などもドラマチックに描写される。その両方のプロットを繋ぐような役割で登場するのが、もう一人のシナリオ作家、石川新一(香川照之)で、これは名前から推測できるように、このドラマの脚本家、市川森一がモデルである。市川森一自身、『ウルトラセブン』に関わっており、内部の事情を良く知っている当事者であった。この特異なキャラクター、石川新一は、ドラマの狂言回しとしての役割も担っている。
 ストーリーは、実話に基づいたエピソードが中心になっているが、やがて、ベトナム戦争に反対して脱走した米兵の話が主眼になっていく。このように60年代末当時の世相も反映されており、ドラマ自体は、最終的に虚実がないまぜになったストーリーとして完結する。『ウルトラセブン』風の演出も随所に登場し、パロディの要素も随所に散りばめられている。そういったやや雑多な要素が、菱見百合子の成長物語の中に収束していくというストーリーである。
『私が愛したウルトラセブン』(ドラマ)_b0189364_08361165.jpg またキャスティングもユニークで、円谷英二を鈴木清順が演じていたり(相変わらずの棒読みセリフだが)、天本英世がチョイ役(守衛役)で出たりしているのも楽しい。ひし美ゆり子自身もカメオ出演している。香川照之の石川新一と財津一郎の三国の二人は特に強烈なキャラクターで、登場するのが楽しみになるような存在であった。このようにキャスティングの見どころも多い。
 昨今NHKで、再現ドラマに終始しているような、内容の乏しいドラマがたびたび放送されているが、この作品と比較してみると、この30年の間に日本のドラマの質が著しく劣化していることがよくわかる。回顧的な再現ドラマを作るにしても、このドラマぐらいの工夫とエンタテイメント性を盛り込まないと薄っぺらなものしかできないのであって、妙に生真面目に作られた昨今の再現ドラマは、正直懐かしさ以外何も残すことがなく、まったく面白味がない。作り手がドラマ作りの本質的な部分を何か勘違いしているのではないかとも思える。このドラマをあらためて見て、そういうことにまで思いを馳せたのであった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ウルトラセブン (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ウルトラセブン (42)、(43)(ドラマ)』
竹林軒出張所『万華鏡の女 女優ひし美ゆり子(本)』
竹林軒出張所『ふたりのウルトラマン(ドラマ)』
竹林軒出張所『総天然色ウルトラQ (15) 他(ドラマ)』
竹林軒出張所『色づくQ』
竹林軒出張所『アイドル誕生 輝け昭和歌謡(ドラマ)』
竹林軒出張所『トットてれび (1)〜(5)(ドラマ)』

by chikurinken | 2024-08-07 07:28 | ドラマ
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