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竹林軒出張所

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『抑圧のアルゴリズム』(本)

抑圧のアルゴリズム
検索エンジンは人種主義をいかに強化するか

サフィヤ・U・ノーブル著、大久保彩訳
明石書店

書かれている内容については賛同できるが
文章でかなり苦痛を強いられる


『抑圧のアルゴリズム』(本)_b0189364_08581109.jpg グーグルなどの検索に大きな問題が含まれていることを告発する本。
 たとえばグーグルで「black girls」(黒人の女の子)というキーワードで検索するとポルノサイトばかりが表示され、「beautiful」というキーワードで画像検索すると、若い白人女性の画像ばかりが出てくるという事実が事の発端になっており、一定の価値観が検索エンジンの背景に潜んでいるというのである。そして、その価値観というのは、キリスト教徒の白人男の権威主義的なそれであるという。そういう事実があってそれが指摘されているにもかかわらず、グーグル側は、それは構造上仕方のないことであるとして、長きに渡ってアルゴリズムに手を加えようとしなかったらしい。ところが数年後、この問題が広く知られるようになると、密かにアルゴリズムが変更されたらしく、現在では違う検索結果が表示されるようになったという。要するにグーグルは、アルゴリズムの変更が(グーグルの主張に反して)可能だったにもかかわらず、意図的にそれを行わなかったわけだ。
 この事実は、見方を変えると、グーグルがユーザーに対して一定の(偏狭な)価値観を強制していた(している)と言うこともでき、ユーザー側は知らず知らずのうちにその価値観に染まっていく可能性があるため、その危険性は計り知れないのである。事実、2015年に、ある白人男(米国人)がグーグル検索を機に黒人に対する差別意識を助長させ、その挙げ句、黒人に対して銃乱射事件を起こしたこともある(エマニュエル・アフリカン・メソジスト監督教会での乱射事件)。
 このような人間疎外が密かに行われているのが現在のテクノロジーであり、しかも検索エンジンについては自社の利益のために恣意的に検索ヒット順を変える(金さえ出せば上位にヒットされるようになる)などということも行われているわけで、あらゆる検索結果が特定企業、特定の人間の集団によって支配されているという現状がある。検索サイトがネットへの入口(ポータル)になっている状況から考えると、これは大変由々しき問題であり、ほとんどの人が気が付かないままその価値観に染められてしまうという危険性を秘めている。こういう現状を認識した上で、それを変えさせるためにも告発が必要だというのが本書の趣旨である。
 主張については納得するし同意するが、同じような主張が繰り返し展開されるなど、全体的に冗長である上、観念的な話が続いて、わかりにくさに拍車がかかる。これは原書のせいだけでなく翻訳の問題が大きいと思われるが、とにかく文章が直訳調で、しかもさまざまな用語(外来語や専門用語)についても説明なく使われるためににわかに意味が掴めない箇所が、特に後半非常に多くなっている。翻訳者が途中から疲れたせいか、それともやっつけ仕事だったせいかはわからないが、ほとんど高校生の英文和訳みたいな、あるいは自動翻訳やAIを使ったのかというような文章ばかりになって、一読して意味が通じない文章が立て続けに出てくる。原文では、それほどややこしいことを言っているわけではなさそうだが、とにかくわかりにくい。たとえば最終章の「結論」の冒頭部分、次のような記述が出てくる。

……本書では、従来のメディアにおける誤表象が検索エンジンのようなデジタルプラットフォームでもみられること、そして検索そのものがアメリカ文化のなかに織り込まれていることを示してきた。 情報化時代のレトリックは概ね、ユーザーから具体性を取り去る、あるいは少なくとも技術革命の覇権主義的な背景を矮小化しようとしているが、アフリカ系アメリカ人は、社会的アルゴリズムに発現する権力関係をよそに、テクノロジーを受容し、修正し、まったく異なる枠組みのなかに文脈化してきた。本書は、すでに周縁にいる人々をさらに疎外することがないような、社会技術システムに対するラディカルな介入についてのより思慮深い対話を始めるきっかけとなりうる。アルゴリズムは、文脈から切り離せない、権力に満ちたものであり、それは今後も変わらないだろう。(本書272ページ、「結論」の冒頭)

 少し見ただけでも「誤表象」、「情報化時代のレトリック」、「ユーザーから具体性を取り去る」、「技術革命の覇権主義的な背景」、「社会的アルゴリズムに発現する権力関係」、「文脈化」、「文脈から切り離せない、権力に満ちたもの」などという表現がわかりにくく、もう少し具体的な説明が欲しいと感じる。他にもやたら「ナラティブ」という言葉が出てきて何を表現しようとしているのかがよくわからない上、「カラーブラインド」、「アフォーダンス」などという用語もそのまま使われている。こっちが「アホーざんす」なのか知らんが、よく意味がわからない。こういった用語を使うんならわかりやすい解説を付けてもらいたいところだが、あるいはこの本は、こういう用語を熟知している専門家向けなのかも知れない。だが本書で展開される議論は、専門家より一般人に向けるべき類のものであり、専門用語(?)を並べられても、一般人、少なくとも僕は戸惑うばかりである。
 前半がそれなりに読ませる内容で順調に読み進められたため、その勢いで最後までがんばって読んだが、後半はかなり苦痛を強いられる読書体験だった。原文のせいか翻訳のせいかはにわかに判断できないが、こんな文章は一般人にはそっぽを向かれてしまうだろう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『“電子図書館”の波紋(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アップル、グーグル、マイクロソフト(本)』
竹林軒出張所『生成AIの正体(ドキュメンタリー)』
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by chikurinken | 2024-07-08 07:57 |
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