闘い続けた郵便局長たち
英国史上最大のえん罪事件
(2023年・英Little Gem Media、ITV Studios)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
あちらのシステムもこちらのシステムも
似たようなもの
他山の石とすべき![『闘い続けた郵便局長たち』(ドキュメンタリー)_b0189364_08443556.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/202406/27/64/b0189364_08443556.jpg)
イギリス全土の郵便局で起こった郵便局冤罪事件を取り上げるドキュメンタリー。
一部日本でも報道された事件ではあるが、対岸の火事であることからか詳細は伝わってこず、富士通のポンコツシステムが絡んでいた程度の認識しかなかったが、このドキュメンタリーで詳細が伝えられたために、おかげさまで全体像を把握することができた。
元々は、1999年にイギリス全土の郵便局に会計システムが導入されたことから始まる。イギリスの郵便制度は、中央を統括する郵便企業(このドキュメンタリーでは「ポストオフィス」という名前で呼ばれていた)が、各地域に出先の郵便局を構え、地元の人間を郵便局長に就任させて、一切の取引や郵便業務を委託するという方法で運営されていた。日本の制度と似たような方式である。地域の郵便局はどこも、それまで手動会計で概ね健全に運営されていたようで、地元からも愛される存在だったようだが、それが会計システム導入によって一変する。
各地の郵便局では、1日の収支を毎日記帳しており、差額が出れば局長が補填するようなシステムになっているわけだが、それまでほとんど経理に問題がなかったような郵便局で、数千ポンド単位の赤字額が日常的に会計システムによって示されるようになった。局長たちは驚き本部に問い合わせるが、システムには問題がないためその額を補填するよう指導される。金額が多いため、中には親族に借りて補填した局長もいたが、補填できないためにポストオフィスから詐欺罪で訴えられ逮捕された局長も現れた。
![『闘い続けた郵便局長たち』(ドキュメンタリー)_b0189364_08443988.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/202406/27/64/b0189364_08443988.jpg)
こういう「詐欺事件」が全国的に発生し、多くの郵便局長は失職したり犯罪者にされたり、あるいは不正を行ったとして住民から軽蔑されたりしたわけだが、やがてこういう状況に納得がいかない数人の元局長の有志が集まり、同様の被害が全国的に出ていることを突き止める。つまりシステムの方に問題があることがわかり、ポストオフィスと闘うことを決意する。彼らは集団民事訴訟までこぎつけ、小さな証拠を少しずつ集めて、結果的に勝訴し、ポストオフィス側のシステムの問題、木で鼻をくくった態度しか取ってこなかったポストオフィス内の官僚的な構造などが問題視されるようになった。こうして、かつての郵便局長たちの名誉回復と補償が行われたというのがことの顛末である。
運用を開始してから不具合が生じたらシステムの方を疑うのは筋だが、テクノロジーに過剰な信頼感があったせいかわからないが、本末転倒の対応しか取れなかったポストオフィス上層部の対応にはまったく呆れかえるばかりである。もっともこういう事例、日本の企業や行政では頻発する事象であり、決して対岸の火事とは言えない出来事で、日本のマスコミでも報道すべき事象であるのに、日本のマスコミも問題意識が低い官僚的な構造になっているのか知らんが、いまだにこのドキュメンタリー以外、大きく報道されることはない。そもそもシステムが富士通製であること一つ取っても、日本国内にも同様のシステムが存在する可能性が高いということを考えると、決して他人事では済まされないと思うが。ホントにこの国の報道機関はどうなってるんだろうかと思う。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『私は屈しない(ドラマ)』竹林軒出張所『時間が止まった私(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『知事抹殺 つくられた福島県汚職事件(本)』竹林軒出張所『“悪魔の医師”か“赤ひげ”か(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『DNA捜査最前線(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『“冤罪”の深層(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『正義の行方(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ニッポン国VS泉南石綿村(映画)』竹林軒出張所『なぜあの人はあやまちを認めないのか(本)』