ゴースト オブ オイル
廃坑井が危ない
(2022年・仏Dreamway Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
近代文明のツケがまわされてきた 坑井(こうせい)とは、石油や天然ガスの採掘を行うための小規模なたて穴のことで、油井やガス井がその代表である。北米やヨーロッパには、この手の坑井が非常に多く残されており、使われなくなったいわゆる廃坑井(はいこうせい)も数多く存在する。使い終わった坑井は一般的に一定の処置をしてから廃止しなければならないことになっているが、費用がかかるために多くの業者が処置を行わないまま放置している。だが処置が行われていない廃坑井からは、メタンや廃油、ベンゼンなどが放出され続けており、それが周囲の環境、ひいては地球環境に多大な影響を及ぼし続けているという現実がある。そういう状況を告発するのがこのドキュメンタリーである。
このドキュメンタリーで紹介される廃坑井は、北米、ヨーロッパ、北海のもので、狭い地域に数千の廃坑井が存在するケースもある。世界規模で見ると、数えられないほどの廃坑井が存在することになる。
北米のケースでは、周囲にメタンガスが漏れており、それが住宅街に流れ込んで爆発、火災事故を引き起こしていた。また同じく北米で廃坑井が巨大な陥没を引き起こした事例、硫酸を放出して池を作った事例などが紹介されていた。ショッキングな映像が目白押しである。周囲の森をことごとく枯れさせていたものもあれば、海底からメタンガスをずっと放出し続けている(北海の廃坑井)というものもある。
採掘業者は基本的に責任をとろうとしない上、行政にも圧力をかけているようで、そのために解決の糸口もなかなか見えてこない。すべてが放置状態で周辺環境にとって非常に危険なだけでなく、温室効果が非常に高いと言われるメタンガスが垂れ流しになっていることから、地球環境に対する影響も予測が付かないというのが現状である。先のことを考えずに環境破壊を繰り返してきた近代文明のツケが今こうして回ってきたということである。行政が動いているケースもあるようだが、それでも世界中に廃坑井が無数に残されている(しかも把握されていない廃坑井も多い)現状を鑑みると、解決不能なんじゃないかと感じる。少なくともこういう現状が存在することは知っておくべきだと思う。そういう点では非常に有意義なドキュメンタリーである。
★★★☆参考:
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