国連平和ミッションの闇
(2019年・スウェーデンSVT)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
メディアの調査報道による真相究明 2017年3月、コンゴで国連の平和活動に従事していた職員2人が、活動中に殺害された。スウェーデン人のザイダ・カタランとアメリカ人のマイケル・シャープがその2人で、現地で行われた大量虐殺について調査を進めているところだった。
コンゴでは政府軍と反政府軍があちこちで衝突を繰り返しており、それに伴って大量虐殺事件も頻繁に起こっている。そのため、国連が現地で和平工作を行っており、今回殺害された職員もその任務に当たっていた。
彼らの遺体が見つかってからしばらくして、何者かが撮影した殺害時の映像が公開されただけでなく、彼らの携帯からも殺害に至るまでのプロセスを示す映像が見つかっていたことから、彼らの足取りが少しずつ掴めてきた。国連も調査に乗り出して、真相解明が一気に進むかに見えた。
その後国連当局から発表された報告書では、殺害者を現地の反政府勢力として、状況をしっかり把握せずに無謀な行動に走った2人の職員の過失という結論が出された。政府側も反政府勢力の人間を拘束し、殺人罪で処罰しているが、これもその内容に従った形だった。
しかし残された証拠から精査してみると、2人の職員による事前の現地有力者へのインタビュー(映像が残されているもの)で、有力者の現地語での発言が曲解されて通訳されていることが判明する。そしてこれを担当した通訳者がコンゴ政府から派遣されたスパイだったことがわかる。つまりこの事件、コンゴ政府が背後で操っていた可能性が高く、かつて政府軍が現地で行った大量虐殺が2人の職員によって明かされそうになったことから、政府側が2人の職員の計画的殺害に及んだのではないかという見方が浮上してきた。
国連側も、コンゴ政府の筋書きに沿った報告書を出しているわけだが、おそらく、コンゴ政府との関係悪化を恐れて事件を握りつぶそうとしていることが考えられる。「臭いものに蓋」という発想で、結果的に真の真相究明が行われることはなく、そのため死んだ2人の職員が浮かばれることがなくなるわけだ。だが、一方の職員の母国、スウェーデンの公共放送SVTが、国連発表を鵜呑みにすることなく、この事件の真相を解明すべく取材を進めてきたのだった。こうした経緯を経てできあがったのが、このドキュメンタリーである。
内容はミステリー仕立てで、真相を追究する過程をそのまま映像化したようなものになっており、緊迫感もありスリリングで見せるものになっている。結果的に、メディアによる調査報道はかくありたいと感じさせるような、優れたドキュメンタリーに仕上がっていた。他のメディアもこの姿勢に追随してほしいと感じさせる秀作だった。
国際エミー賞最優秀時事番組賞受賞
★★★☆参考:
竹林軒出張所『血塗られた携帯電話(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『騙されてたまるか 調査報道の裏側(本)』竹林軒出張所『日本の熱い日々 謀殺・下山事件(映画)』