新・ドキュメント太平洋戦争
1943 国家総力戦の真実 前編・後編(2023年・NHK)
NHK-総合 NHKスペシャル
当時の空気感を窺うことができる
NHKスペシャルの『新・ドキュメント太平洋戦争』というシリーズは、1941年版、1942年版とこれまで2回放送されており、この、1943年版は3回目の放送ということになる。太平洋戦争時の日本国内、それから戦場の様子を、当時の人々の個人記録(この番組ではこれを「エゴドキュメント」と呼んでいる)を、当時の記録(カラー化されたものもある)を交えて紹介するという主旨であり、当時の人々の生々しい思考と当時の空気感を窺うことができるようになっている。もちろん紹介される個人記録は番組製作者が取捨選択したものであるため、番組製作者の意図がそこに働いているのは目に見えているが、それでも、従来言われてきたような「盲目的かつ従順に国家に従う国民」という図式が必ずしも当てはまらないことはわかる。時代的な空気を表現できていると言えそうである。

1943年になると、ガタルカナル島やブーゲンビル島の前線基地が陥落して米軍の手に落ち、挙げ句に、連合艦隊司令官の山本五十六が前線激励のために現地に赴くときに、乗っていた航空機が打ち落とされ、死去するという事件まで起こる。帝国にとって不都合な多くの事象は国民に伝えられなかったが、まったく秘匿することもできなかったのか少しずつ状況が伝えられるようになる。ただし全滅は「玉砕」、撤退は「転進」という言葉で置き換えられ、政府の都合の良いようにごまかされる。
盲目的に政府の主張を信じて耐えている銃後(国内在住)の国民もいるが、「動員」という名の強制労働に駆り出されることが日常になって、しかも身近な人間が戦地に送られたり、少年が「予科練」という名の兵士候補生(後に特攻候補生に転進)にリクルートされたりすると、感覚的に遠い異国の出来事だったことが身近なものになってくる。しかも、日々、食料が減るなどして生活が厳しくなると、徐々に国民の間にも不安が出てくるようである。そういう記述が個人記録にも少しずつ現れてくる。

大学生も戦地に駆り出されるようになった他(学徒動員)、少年のリクルートについてもそれぞれの地域や学校にノルマが課せられるという、今考えるととんでもない状況が進んでいくのがこの時代である。兵士になる気がない少年たちも、学校にやって来たリクルーター(先輩の予科練生)の英雄主義に感化されたり、兵士に応募しなければ家族が肩身の狭い思いをするなどで、結局志願するということまで起こっている。こういう「空気で強制される」という状況は少し前のコロナ禍で再現されたことも記憶に新しいが、日本にはいまだに戦時の全体主義の傾向が残っているということがよくわかる。現状に疑問を持っていても、マイノリティとして封殺されてしまう社会は嫌なもので、そういう時代的な空気が再現されていたのは、このドキュメンタリーのお手柄と言える。
★★★☆参考:
NHK「新・ドキュメント太平洋戦争1943 前編」NHK「新・ドキュメント太平洋戦争1943 後編」↑〈番組の内容のほとんどが紹介されている〉
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