「山上徹也」とは何者だったのか
鈴木エイト著
講談社+α新書
安倍晋三殺害事件の背景を”推測”する 『自民党の統一教会汚染』で政界とカルト宗教との繋がりを暴いた鈴木エイトが、安倍晋三殺害事件の犯人である山上徹也に迫ろうとする本。
山上徹也に迫ろうとする本ではあるが、実際には山上徹也は拘置所に収監されており、しかも外の世界に向けて発信することもまったくないため、山上に迫ることができているかというとさにあらず、残念ながら外側から推測するしかないというのが実態である。
ただ、著者は早い段階から安倍晋三をはじめとする自民党議員と統一教会との関係を暴いてきており、山上徹也も著者の記事を通じてその事実を知ったわけであるから、著者の活動があの事件の遠因の1つであるとは言える。しかも事件を起こす前に山上は、著者、鈴木エイトにDMを送っていたのである。これについては、著者は事件が発覚するまで気付かなかったらしく、それについても責任を感じているようである(つまり山上とやり取りすることで事件の発生を食い止めることができたのではという思いがある)。同時に、早い段階から安倍晋三に迫っていた自分自身と、山上徹也、安倍晋三の三者の間に運命的な繋がりがあったも感じているようだ。そういう背景があって、情報が少ないなりにも山上徹也にアプローチすることに意義を感じているようで、それが本書の上梓に繋がったということである。
本書では、事件に至るまでの山上徹也の足跡を、SNSでの痕跡を辿って追っていくんだが、同時に著者は山上を親身に世話していた叔父や、担当弁護士のところにも足繁く通い、何とか手がかりを得ようとしている。もっとも、事件に至るまでの背景を解明しようとする努力は伝わってくるが、実際にはやはり決定的に情報量が足りない。結局のところ本書では、自身と、山上徹也、安倍晋三のこの10年間の足取りを辿るというレベルで終わってしまっている。今後、公判で山上自身の口でその背景が語られれば、さらに深掘りできるかも知れないが、現時点ではやはり推測で終始するしかないのである。本書には、今後の展開を見据える上での予備知識を提供するという価値はあるが、残念ながらそれ以上ではない。
★★★参考:
竹林軒出張所『自民党の統一教会汚染(本)』竹林軒出張所『「カルト宗教」取材したらこうだった(本)』竹林軒出張所『妖怪の孫(映画)』竹林軒出張所『決定版 マインド・コントロール(本)』竹林軒出張所『カルト宗教信じてました。(本)』竹林軒出張所『カルト宗教やめました。(本)』竹林軒出張所『家族不適応殺(本)』