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竹林軒出張所

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『テレビで会えない芸人』(映画)

テレビで会えない芸人(2021年・鹿児島テレビ放送)
製作:阿武野勝彦
監督:四元良隆、牧祐樹
撮影:鈴木哉雄
出演:松元ヒロ(ドキュメンタリー)

物言えば唇寒きこの時勢
語り続けるにこそ価値あれ


『テレビで会えない芸人』(映画)_b0189364_09094675.jpg 芸人の松元ヒロに密着するドキュメンタリー。
 松元ヒロはかつてザ・ニュースペーパーというコントグループで活動していたが、現在は脱退して単独で舞台に立っている。芸の内容は政権に対する風刺が中心で、それはザ・ニュースペーパーの時代から一貫している。ザ・ニュースペーパーはかつてテレビにたびたび登場していたが、現在松元ヒロがテレビに登場することはない。テレビ局側が政治批判を取り上げたがらないというのが一つの理由である。ただし視聴者の方が政権批判を望んでいないかというと必ずしもそうではなく、松元ヒロの舞台も盛況のようである(4日間の東京公演はすべて予約完売)。事なかれ主義のマスコミの現状が見えてくるわけだ。
 テレビが取り上げるかどうかにお構いなく、松元ヒロは地道に舞台活動を続けている。このドキュメンタリーではその様子も随時映し出されており、舞台の一部を垣間見ることができる。内容は独り語りで、漫談みたいなものだが、随所に政権に対する風刺が入り大きな笑いが起こっている。こういうものはテレビ放送で流してもなんら差し支えないもの(むしろどんどん取り上げるべきもの)だが、実際にはテレビでこういうものが流されることはほとんどない(爆笑問題くらいか)。松元ヒロが舞台で語っていたように、日本のマスコミは公共の番犬(Public watchdog)ではなく政権のポチに成り下がってしまっているわけで、非常に嘆かわしい現状が映し出される。さらに松元ヒロが舞台で紹介していた日本国憲法の前文がなかなか格調高く聞こえていたのも印象的だった。松元ヒロの舞台の人気の理由がわかるような気がした。また松元ヒロ自身が終始笑顔で、彼の人間性も非常に魅力的であることもこの作品に花を添えていた。
 なお本作は、元々鹿児島テレビ放送製作のテレビ用ドキュメンタリーだったが、映画化に当たって阿武野勝彦が製作担当についたということである。阿武野勝彦は、東海テレビに所属してさまざまな傑作ドキュメンタリーのディレクター、プロデューサーを務めた人だが、24年1月付けで東海テレビを退社していた。今後フリーの立場で映像製作に関わるという。本作の製作時はまだ東海テレビに所属していたようだ。
2020年日本民間放送連盟賞最優秀賞、第58回ギャラクシー賞優秀賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『妖怪の孫(映画)』
竹林軒出張所『i —新聞記者ドキュメント—(映画)』
竹林軒出張所『同調圧力(本)』
竹林軒出張所『安倍晋三 VS. 日刊ゲンダイ(本)』
竹林軒出張所『教育と愛国(映画)』
竹林軒出張所『何が記者を殺すのか(本)』
竹林軒出張所『さよならテレビ(本)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『樹木希林、東海テレビ作品三本(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『裁判長のお弁当(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
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竹林軒出張所『神宮希林(ドキュメンタリー)』
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竹林軒出張所『チョコレートな人々(映画)』

by chikurinken | 2024-02-21 07:09 | 映画
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