チョコレートな人々(2022年・東海テレビ)
製作:阿武野勝彦
監督:鈴木祐司
撮影:中根芳樹、板谷達男
音楽:本多俊之
ナレーション:宮本信子
理想の労働形態とは何かを問いかける作品
愛知県の豊橋にある「久遠チョコレート」というチョコレート専門店に密着するドキュメンタリー。東海テレビで放送され、その後映画化された作品である。
チョコレート専門店の密着というと、バラエティ番組でやっているような(「オイシー」を連発するような)くだらない紹介映像をイメージしてしまうかも知れないが、実はこの久遠チョコレート、障害者をはじめとする社会的弱者(とされている人々)を積極的に雇用して、なおかつ彼らに最低時給を上回る賃金を出し、その上で収益を上げるということを目指しており、それをほぼ実現しているという稀有な存在の店。しかも今や全国的にチェーン店を展開しており、品質でも消費者からお墨付きをいただいているという状況になっている。
障害者を雇用して最低時給を上回る賃金を出すというのは特段目新しく感じないかも知れないが、実際には、たとえ障害者雇用が行われても正当な賃金が支払われることは少ない。これは彼らが実際に従事できる仕事が健常者より少ないためだが、しかしそういう人でも仕事を限定すれば健常者より良い仕事ができることもある。お菓子作りについては、仕事を細分化して特定の作業に従事してもらえば、大いに戦力になる。その上で、それぞれの人たちが、自分のスタイルに合わせた雇用形態で無理なく務めれば、お互いにウィンウィンの関係を得ることができる。そういうことが久遠チョコレートの例から見てとれる。
とは言え、これを実現するのはそれなりに難しく課題が多いことは、この映画を見るとよくわかる。難題が多く、場合によっては解決できないものもある。それでもそこを乗り越えようとすることに価値があると、経営者の夏目浩次氏は語る。

そもそもこの夏目氏、障害のある人々をなんとか社会に組み込めないかと考え、若い頃に豊橋でパン屋を始めた。この店は、従業員6人のうち障害者が3人を占めるというもので、それを考えると夏目氏の理想の高邁さがよくわかるというもの。ただパン屋となると、多くの商品が無駄になってしまう(消費期限が過ぎると破棄しなければならない)などいろいろな問題があったようで、そのためもあってチョコレート製造業に転身したようである。チョコレートは、たとえ失敗しても融かせばもう一度製品として仕上げることができるという点で、商品の無駄が少ないため、障害者が働く上では適した素材であるということらしい。製品も上々の評価を受け、現在の地位を築き上げたというのが現状である。
ただそうは言っても、特異な障害者の雇用にはいろいろと問題が出てくるのは必定で、それについても夏目氏が丁寧に対応している様子が画面に映される。時には納期に間に合わせることができないで失望することもあるが、問題が出てくるのは当たり前でそれを乗り越えてこそ新しい展望が開けると考えているようだ。
全体的に地味目なドキュメンタリーだが、夏目氏の人となりが気持ち良く、試聴後感が非常に良い。浄化されたような心持ちになる。
『みんなの学校』の木村泰子氏の活動に触れたときと同じような感慨を抱いた。労働形態のケーススタディとしても有効である。
日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリ受賞
★★★☆参考:
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