渥美清の泣いてたまるか
第65回 ああ軍歌(1967年・国際放映、TBS)
脚本:山田太一
演出:今井正
出演:渥美清、小山明子、大塚国夫、賀原夏子、西村晃、山形勲
一種のパワハラに悩まされるサラリーマン
昭和平成の世によくあった風景
1966年から3年に渡って放送されたドラマ『泣いてたまるか』の1本で、脚本を山田太一、演出を(なんと)今井正が担当しているという、今となってはかなり豪華なドラマ。もっとも当時は、今井正は巨匠ではあったが、山田太一はまだ駆け出しである。駆け出しのライターであっても、かなりしっかりした構成で書かれており、そのあたりは後に開花した才能の片鱗を感じさせる。
『泣いてたまるか』については、このDVDには「渥美清の」というタイトルが付いているが、青島幸男や中村賀津雄も主演していたらしい。ただ現在DVDが出ているのは渥美清版だけのようである。今回のDVDを見る限り、フィルムで撮影されている模様で、おそらく「渥美清主演」以外の作品も原版が残っているのではないかと思う。なお山田洋次の映画、『男はつらいよ』シリーズの原点は、『泣いてたまるか』の中の1本、最終話の「男はつらい」である。
さて本作であるが、とある会社で実直に課長を務めているサラリーマンの主人公(渥美清)が、親会社から送られてきた新社長(山形勲)の改革に違和感をおぼえ、衝突するというストーリーである。新社長は軍隊経験者であり、その改革というのも、「復唱」など軍隊式の規律を持ち込もうというもので、改革というより反動とも言える。その上、この社長、宴会の席では何かというと軍歌を歌い、それを部下たちにも強要する。主人公も軍隊経験者であるが、軍歌には辛い想い出があるため、軍隊賛美あるいはノスタルジーで歌われる軍歌に違和感があり、一人歌わずに通していたが、それが新社長の目に留まりにらまれるというわけである。
今であればパワーハラスメントに相当するが、こういう出来事は実際によく起こる話で、しかもそれが自分の意に沿わない形で展開されれば抵抗するのも当然。しかもそれが安易な軍国主義賛美であればなおさらである。そのあたりが、軍歌を賛美する当時の風潮(これについてはドラマ内で言及されていた)に対する脚本家の視点でもあるんだろうが、その強いメッセージ性が心に響く。
テレビ放送用のドラマではあるが、45分のフィルム撮影作品であり、演出も手堅く、映画レベルの質の高い作品である。内容はホームドラマ風で身辺描写が主となっているため軽めではあるが、今見てもまったく色褪せない優れたドラマと言うことができる。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『男はつらいよ(ドラマ版)(1)、(26)(ドラマ)』竹林軒出張所『拝啓天皇陛下様(映画)』竹林軒出張所『こんにちは(牛の)赤ちゃん』竹林軒出張所『「演歌」のススメ(本)』竹林軒出張所『男たちの旅路 第1部「非常階段」(ドラマ)』竹林軒出張所『男たちの旅路 第1部「路面電車」(ドラマ)』竹林軒出張所『男たちの旅路 第1部「猟銃」(ドラマ)』竹林軒出張所『男たちの旅路 第2部「廃車置場」(ドラマ)』竹林軒出張所『男たちの旅路 第3部「シルバー・シート」(ドラマ)』竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『山田太一のドラマ、プラス10』竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』『泣いてたまるか』OP主題曲