今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんでそのあたりご理解ください。
今年は映画もドラマもあまり見ていないため、ベストの対象は本とドキュメンタリーだけです。
(ベスト内のリンクはすべて過去の記事)
今年読んだ本ベスト5(53冊)
1.
『子どもと親のためのワクチン読本』2.
『ワクチン幻想の危機』3.
『失われた時を求めて 花咲く乙女たちのかげに』4.
『漫画訳 雨月物語』5.
『子どもたちに民主主義を教えよう』 今年も再読した本が多く内容的に優れたものも多かったが、そういう本はすべて除外。今年新しく読んだ本からの選定である。
1.の『子どもと親のためのワクチン読本』と2.の『ワクチン幻想の危機』は、どちらもワクチンについて考える材料として非常に優れた本で、前者は特に、かつてワクチン開発に関わった医師が、乳幼児ワクチン導入時のいきさつなどについても詳細に、なおかつきわめてわかりやすく語ってくれるため、有用性が非常に高い。これから子を持とうという親にはぜひ一読をお勧めしたい。後者は、主に新型コロナワクチンについて書かれた本だが、これもワクチンが孕む問題について考える一助となる。同時に新型コロナ騒動に対して、冷静な見方ができるようになる。新型コロナ騒動の総括として適した本である。
3.は、マルセル・プルーストの大著『失われた時を求めて』の第2篇をマンガ化したもので、フランス製のマンガ、つまり「バンド・デシネ」である。
第1篇もマンガ化されており、そちらも非常に価値が高いが、第2篇の方が詩情に溢れているという点で一層グレードが高い。
4.も同じく古典のマンガ化作品で、著者が「他の連載を辞めて、1編平均4カ月もの年月を費やして描き上げた」というその熱意に驚く。しかも全9編をマンガ化していると来ている。マンガ版『雨月物語』は他にもあるが、全編をマンガ化したものはないため、そういう意味でも価値が高い。さらには原作の味を活かしてよく翻案できており、翻案ものマンガとしても最高レベルであると断言できる。
5.は、麹町中学校でお馴染みの工藤勇一が教育学者と対談した本だが、工藤勇一が紹介する麹町中学校での実践例が非常に興味を惹く。この部分だけしっかりした形で描き直してもらいたいほどで、学校に限らず、組織内を改革する方法のベストプラクティスとして応用できるような優れた実践例が溢れている。組織に属する人にとって、そして組織改革を委ねられている人々にとって、大変有用な「ビジネス書」になるのではないかと思う。
今年見たドキュメンタリー・ベスト5(69本)
1.
『ルポ 死亡退院』2.
『消えた故郷へ帰るとき』3.
『奥出雲 山林大地主の村』4.
『一瞬の野性』5.
『いらだちと幸せと』 1.の『ルポ 死亡退院』は、『ETV特集』で放送されたもので、NHK記者による調査報道である。八王子の滝山病院が強制収容所化している現状を映像を交えて告発するというもので、まさに報道ドキュメンタリーの鑑のような作品である。とにかく映像のインパクトがすごいドキュメンタリーで、結果的に滝山病院の看護師が逮捕されることになったのは、おそらくこの映像がきっかけになったのではないかと思う(ちなみに逮捕は本作放送前)。ここ数年、NHKのドキュメンタリーが劣化している中で、まだこれだけのものが作れているということに安堵をおぼえる。もっとも『ETV特集』もここのところ質が落ちているように感じるが、今後どうなるか成り行きを見守りたいところである。
2.も『ETV特集』で、昭和に残っていた日本の原風景が、令和の現在、過疎により完全に失われつつあること、一方でそれを残そうとする人々が存在することがテーマになっている。かつて『新日本紀行』で放送された映像も交えて、旧来の地方の生活と現在の都市の生活が対照的に映し出されることで、地方に残されていた大切なものが完全に失われつつあることが実感させられる。わずかに残されていた「逝きし世の面影」が蘇る様子は圧巻であった。
3.は1987年に放送された『NHK特集』で、前近代的な「大地主」制度を垣間見ることができる貴重なドキュメントである。現代にもこういう制度が残っていたこと自体が驚きで、ムラ社会の原風景みたいなものが映し出されるが、一方で一地域を支配する全体主義的な雰囲気に少しばかり不気味さも漂う。
4.の『一瞬の野性』も『NHK特集』で、こちらは1988年に放送されたもの。動物写真家、宮崎学のユニークで斬新な撮影方法が詳細に紹介され、同時に日本の里山に残されている自然がはっきりと捉えられるというドキュメンタリー。番組の構成もしっかりしており、その点でも感心させられる。
5.の『いらだちと幸せと』は、アメリカのドキュメンタリーで、『BS世界のドキュメンタリー』枠で放送されたもの。ALSになってしまった患者の日常生活が、介護される側の目線で描かれるという非常に特異な作品であった。介護する側、介護される側の心情が鮮明に描かれて、人間の内面を描くという点でも成功している。自らの生活をさらけ出す決意をしたALS患者、キャサリンの勇気も称賛に値する。
というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。来年は更新頻度が今年よりも少なくなる可能性が高いですが、ときどき立ち寄ってやってください。
ではよいお年をお迎えください。
参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』竹林軒出張所『2010年ベスト』竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』竹林軒出張所『2012年ベスト』竹林軒出張所『2013年ベスト』竹林軒出張所『2014年ベスト』竹林軒出張所『2015年ベスト』竹林軒出張所『2016年ベスト』竹林軒出張所『2017年ベスト』竹林軒出張所『2018年ベスト』竹林軒出張所『2019年ベスト』竹林軒出張所『2020年ベスト』竹林軒出張所『2021年ベスト』竹林軒出張所『2022年ベスト』