2023年11月29日、脚本家の山田太一が逝去した。
戦後のテレビドラマの頂点を極めた巨星がついに墜ちたということになる。もっとも、年齢も89歳だったことを考えると、決して早すぎる死というわけではない(しかも死因が老衰ときている)。さらに、少し前に脳卒中で倒れてすでに引退状態だった上、2010年以降の作品もかつてのような輝きがなくなっていたのも事実である。だが、その輝かしい実績を考えると、すばらしきかな彼の人生……だったと言えるのではないか。我々はこのすばらしい作家と同じ時代を過ごしたことに喜びを感じるべきなのかも知れない。
今回その訃報に接したため、追悼の意味もこめて、かつて紹介した
『山田太一のドラマ、5本』と
『続・山田太一のドラマ、5本』の後に続くベストのランキングをここで紹介しようと思う。前にも書いたように、10本といわず15本でも20本でもベストのランキングを作ることができるほど山田太一作品は充実しているわけで、どの作品を見ても満足度は高く、外れがきわめて少ない作家である。そこで今回はあえて(稀少な)外れだった(ワースト)作品もあわせて紹介しようと思う。
山田太一のドラマ・プラス1011.
3人家族(1968年・TBS)
12.
奈良へ行くまで(1998年・テレビ東京)
13.
再会(2001年・中部日本放送)
14.
せつない春(1995年・テレビ東京)
15.
時にはいっしょに(1986年・フジテレビ)
16.
秋の一族(1994年・NHK)
17.
やがて来る日のために(2005年・フジテレビ)
18.
夕暮れて(1983年・NHK)
19.
春までの祭(1989年・フジテレビ)
20.
鳥帰る(1996年・NHK)
『3人家族』は古いドラマ(1968年製作)で、大きな事件は起こらず、日常を淡々と追ったようなホームドラマでそれほど目を引くような要素もないんだが、登場人物がどれも魅力的で、楽しい気持ちになれるドラマである。DVDも発売されている。
『奈良へ行くまで』はテレビ東京製作の1998年のドラマで、当時の経済的・社会的背景がふんだんに盛り込まれた意欲作である。こちらも登場人物が魅力的……というか、かなり異様な人々も登場する。こういう人物を描けるのも山田太一ならではというところ。このドラマは現時点で見ることができない。
『再会』は中部日本放送製作の2001年のドラマ。必ずしも平穏でない家族関係が、こちらも淡々と描かれる。主演の倍賞美津子と長塚京三の絡みが最高で、やはり人間を描かせるとこの人に並ぶ者はないと思わせる傑作である。このドラマも、再放送がない限り、現時点では見ることはできない。
『せつない春』もテレビ東京製作(1995年)のドラマで、これがテレビ東京で作った最初のドラマだったのではないかと思う。その後、何度かテレビ東京でドラマが撮られるようになった(『奈良へ行くまで』もそのうちの1本)。放送局側も当時かなり力を入れて作ったということがわかる作品で、完成度が非常に高い。総会屋を扱ったドラマで世相をよく反映しているが、家族の物語にもなっており、社会問題だけにとどまらないのがさすが山田ドラマとうならせる。これも現時点で見ることができない。テレビ東京の山田ドラマは再放送も少ない。
『時にはいっしょに』は、1986年製作のフジテレビのドラマ。家族と個人の問題を正面から扱ったホームドラマで、平穏で幸せそうな家族に別の一面があるというようなストーリーで、これもある意味当時の世相を反映していると言えるのかも知れない。主役の南野陽子が非常に魅力的である。この作品も現時点では見ることができないが、YouTubeに断片がある。再放送も比較的可能性が高いようである。
『秋の一族』は、1994年作のNHKのドラマ。「一族」シリーズは春・夏・秋の3本が作られ、この『秋』は比較的地味ではあるが、いろいろな人間関係を織り込んだ複層的なストーリーである。原田知世が魅力的な他、藤岡琢也や平田満などのバイプレーヤーがユニークかつ自由奔放で、作者の脂ののりきった時期に書かれたシナリオであることが窺われる。DVDも発売されている。
『やがて来る日のために』は、2005年のフジテレビのドラマ。訪問看護師の目に映るさまざまな家庭模様がドラマのモチーフで、素材としては斬新だった。テーマの掘り下げ方が深いため、表層をなぞったような昨今のドラマと奥行きが違うと感じさせる。主演の市原悦子と井川比佐志の関係も楽しく、上野樹里が迫真の演技をしているのも印象的。現時点ではこのドラマを見ることはできないが、YouTubeに断片がある。
『夕暮れて』は、1983年のNHK製作のドラマで、倦怠期を迎えつつある家庭の主婦の不倫がテーマになる。家庭内の母・主婦が、女に変わっていき、それに伴う家庭内のゴタゴタが描かれる。ストーリーは全体的に非常にスリリングに展開する。NHKのドラマはこれまでたびたび再放送されているため、多少は再放送を期待できる作品である。DVDはなく、ストリーミングでも現時点では見られない。
『春までの祭』は、1989年のフジテレビ製作のドラマ。主人公の未亡人(吉永小百合)に厚かましい富豪(藤竜也)が迫るという話で『夕暮れて』の焼き直しみたいな話だが、これは義父と嫁との関係に焦点が当たっているところが違いといえば違いになる。小品だがなかなか印象的なドラマで、吉永小百合の美しさが際立った作品。再放送は期待できない。
最後の『鳥帰る』は、1996年のNHKの作品。主人公の問題に、いろいろな人が介入していくという、この頃の山田ドラマによくあるパターンのストーリーである。これも主演の田中好子が魅力的で、山田ドラマは、主演女優が美しく魅力的に撮られているものが割に多いなと振り返ってみて思う。
他にも、
『家へおいでよ』、
『いちばん綺麗なとき』、
『友だち』、『悲しくてやりきれない』、『丘の上の向日葵』なども侮れない作品であるが、どれも見る機会が少ないのが難点。なお『悲しくてやりきれない』と『丘の上の向日葵』については、U-NEXTなどのストリーミングサービスで見ることができる。そういう作品が少しずつではあるが増えているような気もする(現在、U-NEXTでは他に、TBSの『高原へいらっしゃい』、『岸辺のアルバム』、『想い出づくり』の他、NHKの『今朝の秋』、『ながらえば』、『冬構え』なども見ることができる)が、それでも世間での山田作品に対する扱いは悪いと思う。
今回の逝去に伴って、大手放送局による再放送がちらほらと出てくるのではないかと思うが、この機会がファンにとっては最大の録画のチャンスになる。
NHKも『チロルの挽歌』を本日(2023年12月4日)の夜11時30分から全編放送するらしい。もっとも『チロルの挽歌』はDVD化されている上、少し前にNHKで再放送されているため、目新しさはない。やるのなら今まであまり放送されてこなかったもの(『江分利満氏の優雅な生活』とか『河を渡ったあの夏の日々』)をぜひやってほしいと思うが、おそらくこういう願いは届くまい。BSプレミアムまで廃止される有り様なんで。
続いて、外れだった失望作品を何本か紹介しようと思う。2010年以降の作品(『ありふれた奇跡』以降の作品)は、先ほども書いたようにどれもあまり良くないが、中でも『よその歌 わたしの唄』が特にひどかったのでこれをまず取り上げたい。
山田太一のドラマ・ワースト31.
よその歌 わたしの唄(2013年・フジテレビ)
2. なつかしい春が来た(1988年・フジテレビ)
3.
たんとんとん(1971年・TBS)
この作品は、2013年のフジテレビ製作のドラマだが、全体的な構成に統一感がなく、いかにも行き当たりばったりのストーリーのように見えた。本当に山田太一が書いたのかと思ったような作品で、駄作の部類に入る。
次の『なつかしい春が来た』は、1988年の正月にフジテレビで放送されたドラマで、当時、山田ドラマを欠かさずチェックしていた僕は、このドラマのあまりの出来の悪さに(こちらも)本当に山田ドラマかと目を疑った作品である。あまり記憶に残っていないが、奥行きがなく、面白味もまったくない冴えないドラマだったことは憶えている。ちなみにこのドラマの1カ月前に放送された山田ドラマが
『今朝の秋』である。当時の僕の失望感も理解していただけるのではないかと思う。
『たんとんとん』も、非常に物足りないドラマだった。
『二人の世界』の後に同じ『木下恵介アワー』の枠で放送された連続ドラマだが、炭酸が脱けたビールみたいで、悪くはないが面白味の少ないドラマになっていた。
とは言うものの、失望するような作品は山田ドラマでは稀少な存在であり、今となっては逆にそういうものに当たったのも(稀少という意味では)ラッキーだったのかも知れないと思う。
ともかく、先ほども言ったように、それぞれの放送局にはもっと多くの山田ドラマを公開してもらいたいと思う。今どきは、ストリーミングサービスも多いことだし、そういうサービス側も積極的に山田作品を掘り起こして世に送り出してもらいたいところである。何より山田作品は日本の文化遺産なのであるから。
参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』