学びとは何か
——〈探究人〉になるために
今井むつみ著
岩波新書
主旨には同意するが
残るものはあまりなかった
著者は、子どもが言葉を学ぶ過程を研究している認知心理学・発達心理学の研究者。子どもが知識を創造していく方法をモデルにして、正しい「学び」の方法を提唱する本である。
前半部(第1章から第3章ぐらいまで)が、著者が研究対象にしている発達心理学の成果を集めたもので、子どもが誰からも教わらずに、どうやって言葉や(数などの)概念を習得していくかが紹介される。要するに、耳にしたこと、つまり言葉から知識の断片を集めていき、それによって一つの体系(スキーマ)を作り上げて、それに準拠しながら知識を増やしていくというのが、子どもたちが知識を身につける方法だというのである。ここらあたりはなかなか新鮮な議論で、読んでいて面白い。
後半部(第4章から終章まで)では、子どもの「学び」の方法を参考にして、自然に学べる環境を作るのを目指すべきと主張する。そのために、単に知識を詰め込むことを勉強の中心に据えるのではなく、新しいことを探求していく姿勢が大切で、そういう人材(探求人)を育てることを教育の主眼に据えるべきと説く。同時に、スキーマに凝り固まることがなく、臨機応変にスキーマから外れる重要性も指摘している。後半の議論についてはもちろん異論はなく、自ら積極的に楽しく勉強に取り組めるようにすることが肝要というのは「その通りだ」と思うが、ことさらこうやって書物の形で書くようなことなのかと感じた、率直に言って。ただ僕自身はそういう態度が重要だと常々思っていたが、世の中の人の中にはこういう議論が目新しいと感じる人も多いようなので、そういう人にとっては、全編示唆に富んだすばらしい本と言えるのではないかと思う。僕にとっては、残るものがあまりなかった。
★★★参考:
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