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竹林軒出張所

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『追跡“ルフィ”事件』(ドキュメンタリー)

追跡“ルフィ”事件
〜匿名・流動型犯罪の衝撃〜

(2023年・NHK)
NHK-総合 NHKスペシャル

「ルフィ」事件の「まとめ番組」
犯罪までも派遣労働化してきた


『追跡“ルフィ”事件』(ドキュメンタリー)_b0189364_08512174.jpg 闇バイトを使った特殊詐欺や強盗事件が頻発しており、その元締め(「ルフィ」を自称する人物)が逮捕されたのは記憶に新しいところ。元締めが逮捕されたんだからこのテの事件は少なくなるかと思ったが、あに図らんや、大胆だが稚拙な強盗事件はいまだに発生し続けている。
 こういう強盗事件に共通しているのが、いかにも素人の突撃部隊が、後先考えることなく、きわめて大胆に行動を起こしているという点で、その辺は並みの感覚からは理解できない。すぐに足が着くような犯行方法であり、巧妙に計画されているとは思えず、刹那的でやりっぱなしという印象なのである。それもそのはず、実行犯は言ってみれば臨時雇いで、元締めは身元が割れないよう巧妙に下の者を使って犯行に走らせていたわけで、言ってみれば派遣労働みたいなものである。そしてその元締めの一人が当時フィリピンの収容所にいた「ルフィ」で、携帯電話やパソコンを使って下の者たちに指令を与えていたという犯行の構造が明らかになったのだった。
 で、こういう連中が逮捕されたから解決かと思ったら、実は似たようなグループが他にもあって活動を継続しているがために、いまだに強盗事件が続発しているというのがこの番組の主張である。こういったグループは、元ヤクザや半グレで構成されているらしく、随時流動的に他のグループと連携しては新しい犯罪プロジェクトに取り組むというのが実像らしい。で、この番組では、実際に特殊詐欺を行っている現場の映像が紹介されていて、今でもこういった犯罪が進行中であることを印象付けていた。
『追跡“ルフィ”事件』(ドキュメンタリー)_b0189364_08512500.jpg (おそらく)警察発表を中心にして、警察の協力の下で番組を構成しているせいか、内容はなかなか充実している。番組では、NHKがフィリピンで独自取材を敢行したと言っていたが、どの程度の取材ができたのかはやや疑問で、やはり警察発表が中心なのではないかと勘ぐってしまう。それでも、これまでの事件を総括した「まとめ番組」と考えるとまずまずの出来であった。(嘆かわしいことだが)権力が関わってくると『NHKスペシャル』もまともなものができるようだ。
 この番組によると、警察当局もこういった犯行を減らすためにどう対処していくべきか悩んでいるようだが、結局のところ、実働部隊である末端の若者、つまり闇バイトに走る人間が出ないようにすれば良いということになる。こういう闇バイトの存在が従来型の犯罪との大きな違いであり、それがいかにもネット社会を反映していて現代的な特徴にもなっているわけだ。そしてその原因は何かというと、社会状況、経済状況が不安定になったために、闇バイトに走らざるを得ない人間が出てきたためということになる。そういうことを考え合わせると、このような犯行を減らすためには、社会正義(や社会保障)がしっかり機能するような社会にしなければならないのではないかと思う。だが、社会正義がないがしろになっている今の日本社会では、社会構造の犠牲者が犯罪に走ることを止めることはなかなかできないだろうな、などと、この番組を見ながら、僕は他人事のようにつらつら考えたのだった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『騙されてたまるか 調査報道の裏側(本)』
竹林軒出張所『夢見た国で 技能実習生が見たニッポン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『i —新聞記者ドキュメント—(映画)』

by chikurinken | 2023-11-08 08:51 | ドキュメンタリー
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