年金探偵が行く
(2023年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集
ダメ行政の縮図……それが年金制度
日本の年金システムは、会社員のみが優遇されるという差別的な制度である上、つぎはぎだらけのお粗末な制度であるが、こういった問題が長年指摘され続けているにもかかわらず、一向に手が付けられてきた形跡がない。少しずつ修正されているかのような見せかけはあるが、実態は大して変わらないままで、まったく信頼に足る制度ではないと僕は感じている。しかも掛け金の支払いが少し滞っただけで、年金機構(の代理店)から矢のような催促が来るくせして、いざ年金を受け取る段階になると市民の側が自己申告しなければ受け取れないと来ている(これも最近まで僕は知らなかった)。とにかくあちこちにアラが多すぎて、まさに役所仕事の典型……と僕には映っている。そのため僕自身は日本の年金制度はまったく信用に値しないと考えており、信頼もしていない。
制度が不備なだけでなく、運用自体もこれまで多くの問題が報道されてきており、2007年には「消えた年金」問題などという話が出てきた。要するに支払っていたはずの年金掛け金が、該当の年金番号にしっかり登録されていなかった(つまり個人情報に組み込まれていなかった)という冗談みたいな不祥事で、それがなんと5000万件もあったというんだから恐れ入る。それにもかかわらず、この消えた年金については、基本的に該当者が自己申告して初めて調査が行われるということになっているらしく、認められれば当該年金番号に登録されることになっているらしいが、申告しなければ依然そのままということになる。不祥事のごまかしであり、詐欺みたいなシステムである。そのためか、いまだに半分ぐらいは未解決らしいのだ。人を喰っているにもほどがある。

また戦時中に施行された年金制度の下、支払われた掛け金がそのままになっているケースも多数あり、それについても当人または親族の自己申告があって初めて調査されるということになっている。その上、該当する人たちが申告しても、資料が足りないなどの理由で結局は却下されることが多いらしい。こうなってくると、行政機関がやっているまともな制度とは思えず、建前だけ整えたというのが見え隠れするんだが、これは日本の年金行政全般に共通する特徴である。
そこで、そういう年金を取り戻す手伝いをしているのが社会保険労務士の柴田友都という人で、それがこのドキュメンタリーの主人公である。戦時中に年金掛け金を徴収していた勤務先の資料集めをした上で、申請を代行し、もらえるべきだった年金を取り返す支援をしていんだるが、やはり多くは当局に却下されたり減額されたりするというのが現状である。この柴田氏、成功報酬のみしかもらわないことにしているため、実質的にはボランティアの延長みたいなものであることが映像から窺われる。それでもこのふざけた年金制度の下、少しでも社会正義が実現されるよう取り組んでいるという見上げた人なのである。こういう仕事がなくなっても良いようにするのが、日本の官庁の仕事だと思うが、自分の保身しか興味がない人たちにそういう改革を期待することは結局のところ無理なんだろうなと思う。日本のダメ行政の縮図がここにあるわけだ。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『老人漂流社会(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『人生フルーツ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『CYBER SHOCK(ドキュメンタリー)』