バック・トゥ・ザ・フューチャー あせない魅力の裏側
(2022年・仏ARTE France/CAPA PRESSE)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
2時間弱の映画をモチーフにした
1時間弱のドキュメンタリー
2時間の映画を素材にして1本のドキュメンタリーができあがるものだろうかと思っていたが、結果的になかなか面白い番組に仕上がっていた。
1985年公開の映画、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、当時かなり話題になり、僕なども好きな映画の1つではあるが、他の多くの人にも思い入れのある作品らしい、このドキュメンタリーによると。実際、いまだに若い世代からお年寄りまで広く見続けられているとこの番組の中で語られていたが、確かに若い世代に話を訊いても割合この映画のことを知っている。テレビの映画劇場でもたびたび放送されているようだし。
タイムスリップものというと今ではありふれたモチーフで、なんでもタイプスリップしてりゃ良いのかと悪態もつきたくなるのであるが、それはタイムスリップの必然性というかディテールが多くのドラマ・映画で省略されているというのが最大の理由である。その点、この映画では、そのあたりの事情、つまりなぜタイムスリップするのかというあたりのディテールがしっかり描かれているため、違和感はまったくない。また(タイムスリップものの最大の見どころである)別の時代と接触する面白さも当然あり、しかも主人公が若い頃の父母と接触してそれによって自分の存在に影響が出てくるなど、ストーリーも凝りまくっている。さらに言うと、ウィットが効いたセリフやパロディ、非常に魅力的な登場人物など、映画の面白さが凝縮していて、「傑作」だと言われると、確かにそのとおりだと思ってしまう。
このドキュメンタリーでは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の製作時の背景から始まり、撮影時のエピソード、内容の分析など、2時間足らずの映画が素材であるにもかかわらず、内容はかなり盛りだくさんで見どころも多い。

この映画を企画したロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルが、脚本をさまざまな映画会社に送ったが、40社以上に断られた挙げ句、最後に乗ってきたのがスピルバーグだったとか、当初主演を努めていたエリック・ストルツが4週間の撮影後にマイケル・J・フォックスに交代させられた(演技が重すぎたらしい)とか、面白いエピソードが紹介される。またいくつかのエピソードについては、出演者のリー・トンプソンやドナルド・フュリラブ(ウィルソン市長)、ロック歌手のヒューイ・ルイス(主題歌を歌っている他、端役で登場)、それから製作者たち自らが自分の言葉で語っており、どれもなかなか興味深い。さらには、主役のマーティのセリフや舞台に見られるパロディやオマージュの解説など、注目すべき点も多い。パロディやオマージュについては、これだけの見どころが映画の中で用意されていたにもかかわらずその半分にも気付いていなかったというのは僕自身少々情けなく感じるが、それでもこうやってしっかり解説してもらえると、今後見方が少しは変わるかも知れない。いずれにしても、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が相当な傑作であるということは、あらためて認識できたのだった。
追記:
『PART2』で出てきた、ビフが支配する2015年の暗黒世界は、トランプが大統領に就任していた暗黒時代を体現しているようだ(つまり映画の予言が現実になった)と常日頃から感じていたが、このドキュメンタリーによると、あの世界のビフ大統領は(大統領になるはるか前の)トランプがイメージされていたらしい。実際、映画の中に、トランプタワーならぬビフタワーが登場していたりする。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『バック・トゥ・ザ・フューチャー(映画)』