「断らない」 ある市役所の実践
(2023年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集
役所仕事もかくありたい かつて北九州の役所で、生活保護を申請してきた市民を門前払いにして、結果的にその人を餓死させてしまうというショッキングな事件が起こった。当時「市民を門前払い」にするという同様のケースは全国で起こっており、結局生活保護が何のために存在するのかという根源的な問題に立ち返らざるを得なくなった。ただ以前から役所はそういうものだという認識が市民にはおそらく強く、根本的に役所や役人は信頼されていないというのが一般的な常識なのではないかと思う。
しかし実際には、日本の福祉制度は割合しっかりしていて、実際に利用するとこれだけ充実しているのかと感心することすらある。要するに、市民が必要としているときに、行政サービスまで辿り着けない(あるいは辿り着きにくくされている)ことが多いのが最大の問題になっているわけだ。何かの手続きで役所を訪れたときでさえどこに行けば良いかわからず右往左往するわけで、それを考えると市民と行政サービスの間を取り持つ人が必要であることは火を見るより明らかである。現在は民間のケースワーカーやソーシャルワーカーがそういった役割を兼ねているんだろうが、実際にはこれにも当たり外れがあるという状況である。
このドキュメンタリーで取り上げられている神奈川県の座間市役所には生活支援窓口があり、ここは「誰も断らない」といううたい文句で活動している。来た人に対して役所の他の担当に繋いだりNPOに繋いだりして、しかもその後もその人の面倒を見続けるという活動をしていて、「困っている人を支援する」という大目標の下、先進的な福祉サービスを提供しているというのである。そして、その実態を探るため、彼らの実際の活動に映像で追ったのが、このドキュメンタリーである。
彼らは「チーム座間」と名うったグループを作り、そこにさまざまな福祉関係者(NPO関係者、行政関係者の他、当然生活支援窓口も)が集い、連携をとりながら個々の事例に対応している。彼らの活動を見ていると、本当にこれが役所なのかと思うほどの機動性と柔軟性を兼ね備えており、日本の行政でもやればできるじゃないかと思えてしまう。もっともこの市役所のメンバーたちも元々異業種から転職してきたような人であるため、生粋の役人たちとはもしかしたら意識が違うのかも知れない。
彼らの仕事は、非常に重要で意味のある活動であり、「ブルシット・ジョブ」の代表である一般的な役所仕事とは一線を画していると思える。そのせいか知らないが、メンバーたちはいろいろと悩みながらも活き活きと仕事に取り組んでいるように映る。関わる人も関わられる人もすべてが幸せになるのが理想であり、それを実現するために努力している人々はやはり輝いて見えるということなんだろうか。役所仕事もかくありたいものである。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『しかし… 福祉切り捨ての時代に(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『在宅死 死に際の医療(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (6)(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『セーフティネット・クライシス vol.3(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『子どもの未来を救え(ドキュメンタリー)』