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竹林軒出張所

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『土佐・四万十川』(ドキュメンタリー)

NHK特集 土佐・四万十川 〜清流と魚と人と〜
(1983年・NHK)
NHK-BSプレミアム NHK特集・選

古き良き日本の面影

『土佐・四万十川』(ドキュメンタリー)_b0189364_07435619.jpg 土佐の四万十川が日本最後の清流と呼ばれていたことを初めて知ったのは野田知佑の『日本の川を旅する』でだったのではないかと思う。この本を読んだのが1985年、つまり四万十川が日本の原風景を残す最後の大河川であると知ったのがこのときだったため、1983年作のこのNHK特集はおそらく見ていなかったと思う。これが放送されたことを知っていたとしても、四万十川の価値をまだ知らなかったことから、その時点ではおそらく見ていないだろう。
 このNHK特集は、日本の川が土地の人々とどのように関わっているかがよくわかるドキュメンタリーで、四万十川の風景だけでなく、そこで生計を立てる漁師が行ってきた数々の伝統的な漁もあわせて紹介される。おそらく江戸時代あるいはそれ以前から綿々と営まれてきた生活の一端が83年当時まだ残っており、それが映像に捉えられたということになる。したがってここで紹介されている漁法(イタチの皮を使ったウグイ漁、火を使って網に魚を追い込む火振り漁、笹の葉の束を沈めてそこに集まってくる魚をとる柴づけ漁など)は、文化人類学的視点からも映像としての価値がきわめて高いと言える。漁法も独特でなかなか興味深い。もちろん四万十川の四季の風景も随時紹介され、自然ドキュメンタリーとしては、地味だが大変よくできた格別な作品に仕上がっている。
『土佐・四万十川』(ドキュメンタリー)_b0189364_07440102.jpg 実はここのところ、なぜか四万十川関連の古いドキュメンタリーがNHKで頻繁に放送されている。どれもまだ見ていないため今もこういう漁が残っているのかよくわからないが、少なくとも減少していることは確かである。今後なくなってしまったら、映像でしかお目にかかれなくなり、ますますこういった映像記録の価値が上がることになるわけだ。そもそも手つかずの自然が残された四万十川自体が日本社会の中での奇跡だったわけで、ここに映されたすべての風景は、言って見れば「古き良き日本の面影」の断片ということになる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『黒潮の狩人たち(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『鯉師(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『奥出雲 山林大地主の村(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『特集とスペシャルの間』
竹林軒出張所『ダム建設中止問題の実在に関する考察』
竹林軒出張所『ダムはいらない! 新・日本の川を旅する(本)』

by chikurinken | 2023-09-13 07:43 | ドキュメンタリー
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