時をつくる 機械式時計の奇才たち
(2022年・英Halcyon Pictures)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
仏作って魂入れずの典型
「機械式時計の奇才たち」というタイトルだったので、前にみた
『独立時計師たちの小宇宙』みたいに、機械式腕時計を作るシーンや腕時計の内部構造みたいなものがふんだんに映像として紹介されるのかと思っていたが、予想と期待は完全に裏切られた。
このドキュメンタリーで扱われるのは数人の独立時計師(『独立時計師たちの小宇宙』に登場したデュフォーもその1人)たちの人生で、彼らのこれまでの来し方……というか彼らの人生が紹介される。彼らの時計が実際に映像として出てくるのは、多く見積もっても最後の10分ほどで、ほとんどの箇所では時計師たちの生活と背景が語られるのだった。いわばその人たちの歴史であって、彼らのことをよく知っている人であればいざ知らず、ほとんど知らない僕にとっては関心が涌きようがない。なぜ時計師を志したかという部分は多少興味を惹くが、それ以外は、たとえ波瀾万丈の人生であっても市井の人々と大して変わりなく、知らない他人の人生をことさら取り上げられたところで……という感は否めない。

元々、時計のドキュメンタリーがあってその補足のために作られたドキュメンタリーだったのか、そのあたりの事情はよくわからないが、一番興味をそそる時計自体が出てこないために「仏作って魂入れず」(あるいは「腕時計つくってトゥールビヨン入れず」)みたいになってしまったのは返す返すも残念である。こちらの勝手な思い込みが原因ではあるが、かなり失望したドキュメンタリーであったのは確かである。
★★☆参考:
竹林軒出張所『独立時計師たちの小宇宙(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『万年時計(ドキュメンタリー)』