翔平を追いかけて
(2022年・米Fox Sports)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
『Searching for Shohei』日本版 大谷翔平ファンを公言する野球アナリスト、ベン・バーランダーが、大谷翔平の足跡を辿るというドキュメンタリー。大谷翔平との1時間のインタビューが決定したことから、それを1本の番組にするために企画されたらしい。
ホストであるベン・バーランダーが来日して、大谷翔平の少年野球、高校野球、プロ野球時代を辿っていくというふうにドキュメンタリーは進行する。それぞれの舞台に赴き、大谷の経験を追体験するという具合。プロ野球時代に関しては、大谷在籍時の北海道日本ハムファイターズ監督、栗山英樹氏にも話を訊いている。こういったエピソードを背景にして、大谷のインタビューを紹介するという内容である。
今の活躍から少し意外だったのが、高校卒業に当たって、ほとんどの球団からピッチャーとしてスカウトされており、バッターとしての評価がほぼなかったという点である。僕には、当時から二刀流と騒がれていたような実感があるが、現実的にはピッチャー評価ばかりで、唯一の例外がファイターズだったという。栗山がレポートを大谷に提出して、二刀流でやっていくにはNPB、それも日ハムが良いよというアピールをしたというのは有名だが、もし日ハムに入っていなければ(メジャーを含めて)二刀流はやれていなかっただろうと大谷自身は語っている(日ハム以外、打者としての評価が低かったため)。それを考えると、大谷は日ハム入団について最良の選択をしたということになる。
人間は現在の視点からつい考えがちで、実績を残した人々は、当たり前のように自分の才能だけで新天地を切り開いてきたように思えるものだが、現実は決してそうではない。実際には運や出会いの要素が大きいものだが、そのことをよく示しているような話である。メジャー移籍時に大谷がエンジェルスを選択したことも、振り返って見ると最適解だったように思える。ヤンキースなどの有名球団だと二刀流自体継続できなかった可能性が高い。それに開幕してすぐに、たまたま投打で結果が出たことも大きい。人生にとって運の要素が大きいということを感じさせる事例ではある。
一方で、大谷の活躍は、当時デトロイト・タイガースを回顧されて何をやればよいかわからず途方に暮れていたベン・バーランダーにとっても希望になったという。現在では、大谷の私的応援団みたいな活動をやっているが、そのせいで日本で知名度が上がり、来日したときも歓迎されたことは、バーランダー本人にとって、新たな道を見出すきっかけになったらしい。アスリートが社会に与える影響まで見えてきて、こちらも少しばかり「目からウロコ」の事例であった。そういう点で、単なる大谷レポートにとどまらず、スポーツやアスリートのいろいろな事情に思いを馳せられるドキュメンタリーになっていたと言える。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『メジャーリーガー大谷翔平(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『42 世界を変えた男(映画)』竹林軒出張所『ノーラン・ライアン(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『フィールド・オブ・ドリームス(映画)』竹林軒出張所『モチベーション下がる……』竹林軒出張所『胴上げは……ヨイ』竹林軒出張所『ネットdeプロ野球』竹林軒出張所『ゆく人くる人』竹林軒出張所『野村学校の男達(本)』竹林軒出張所『阪神再建・63歳の挑戦(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『球界の野良犬(本)』