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竹林軒出張所

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『北へ555キロ』(ドキュメンタリー)

ドキュメントにっぽん「北へ555キロ」
日本最北端をめざしたランナーたち

(1999年・NHK)
NHK-BSプレミアム ドキュメントにっぽん

グレートレースものの古典

『北へ555キロ』(ドキュメンタリー)_b0189364_08532524.jpg ここのところ、NHKではウルトラマラソンをテーマにしたドキュメンタリーがたびたび作られて、しかも過酷なマラソン大会をテーマにした「グレートレースもの」もシリーズ化されていて、ああいうものに元々興味があった僕ですら少し食傷気味なほどだ。
 僕がウルトラマラソンに興味を持つようになったのは、NHKのドキュメンタリーを通じてだと記憶している。最初に映像で触れたのは高知の四万十川ウルトラマラソンではなかったかと思うが、もしかしたらこの『北へ555キロ』の方が先だったかも知れないとも思う。この『北へ555キロ』では「トランス・エゾ 北海道縦断遠足ジャーニーラン」を扱っていて、このマラソン、1週間ほどかけて襟裳岬から宗谷岬まで走り(または歩き)北海道を縦断するという過酷な大会である。途中、宿泊地が指定されており、1日数十キロ走ってそのポイントまで辿り着き、そこで宿泊して翌早朝に再び次のポイントを目指して旅立つというもので、コンセプトは他の超長距離のウルトラマラソンと共通している。
『北へ555キロ』(ドキュメンタリー)_b0189364_08533226.jpg こういうウルトラマラソン・ドキュメンタリーは、多くは他愛もなくエンタテイメント以上の要素はあまりないものだが、この『北へ555キロ』はきわめて印象的だったこともあり、今でも記憶に残っているのである。というのも、このドキュメンタリーで取り上げられている参加者がいろいろなものを抱えている人たちだったためで、当時このドキュメンタリーを見た僕は、やはりこういう過酷なレースに出ようという人は、大変な過去を背負っているものなんだなと思い込んだのだった。もちろん実際にはそういう人は少数派で、ほとんどは純粋に遊びまたは競技の一環として参加するわけであるが、このドキュメンタリーで密着されているランナーは、それぞれ過去・現在に抱えているものがあった。
 ここで紹介される年配の女性ランナーは、たびたびウルトラマラソンに参加しているようなベテラン・ランナーなんだが、これから母の介護に専念するという覚悟を決めた人で、この大会が自分にとっての最後の大会になると位置付けているような人なんである。この人、最後のウルトラマラソンを思いっきり楽しもうと意気込んで参加するが、途中熱中症になってフラフラになったりで、次第に遅れを取ってくる。そのため夜遅く走らなければ完走できない状況に追い込まれる(そして本人もそのつもりになる)が、運営側から、夜間峠道を通るとヒグマに襲われる可能性があるなどと脅されたりして、結局完走を断念するのである(その後、走り続けはするが)。
『北へ555キロ』(ドキュメンタリー)_b0189364_08534665.jpg もう1人の男性ランナーは、娘に死なれたという中年男性で、死ぬ間際まで娘に頑張れと言い続けていたことを悔やんでいる(結果的に苦しみを長引かせたと思っている)人。娘が好きだった『魔女の宅急便』のBGMを聞きながら走っている人で、苦難を背負って苦行に励んでいるというような姿が映し出される。とにかく、この人が走る映像が印象的で、そのシーンが僕の記憶に長い間はっきりと残っていたのだった。
 その後、僕自身、一般的なウルトラマラソンが、このような人が(苦行のために)参加する大会ではまったくないことを知り、自分でもいずれ四万十マラソンに参加したいと思うようになったわけだが、とにかくそれくらい、この番組の出場者にはインパクトがあったのだった。
 この番組は過去1回見ただけで、タイトルもすっかり忘れていたが、その後インターネット時代になってタイトルが判明し、そのためにこのブログでも以前何度か触れてはいるが、このたびなんとNHKで再放送されたため、もう1回見ることができたわけである。
『北へ555キロ』(ドキュメンタリー)_b0189364_08533949.jpg 最近NHKはこういう過去の番組をよく放送するようになったが、これについては大いに歓迎するところである。このブログでも再三そうすべきであるってことを訴えていたが、それがNHKに通じたんだかどうだかわからないが、とにかく過去の遺産を発掘して紹介することは、放送局の使命の1つであると思う。この番組については、『ドキュメントにっぽん』というシリーズ番組の1回分であるということもあって、再び見られるとは思っていなかったため、余計感慨深いのだった。ただやはり今見ると、このドキュメンタリーのような捉え方はウルトラマラソンに対する誤解を生み出す可能性があるわけで、そのアプローチ方法としてはあまり関心しない。実際僕は誤解したわけであるから。番組を面白くするための演出だとしたら問題があるが、もっともこのマラソン大会自体についても(熱中症やヒグマとの遭遇など)参加者の生命の危険性が伴うものであり、多少の問題があるとも思える。運営方法を見直さないとそのうち犠牲者が出るんじゃないかと考えたりする(もしかしたらもう見直しているのかも知れない)。もっとも当事者や参加者にとっては、こういう外野の意見は大きなお世話で迷惑なものなのかも知れないが。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『夜のピクニック』(映画)
竹林軒出張所『密着 ひきこもり遍路(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『祈りの歌をヴァチカンへ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『激走! 富士山一周156キロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『雲上の超人たち(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人は走るために生まれた(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2023-07-16 07:32 | ドキュメンタリー
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