NHK特集 黒潮の狩人たち 土佐カツオ船団の記録
(1982年・NHK)
NHK-BSプレミアム NHK特集・選
一本筋が通った一本釣り紹介ドキュメンタリー 高知のカツオ漁船の物語。
このドキュメンタリーで取り上げられるのは第23佐賀勝丸というカツオ漁船で、高知の土佐佐賀を拠点とした一本釣り漁船である。一本釣りは、魚群を探し当ててそこに餌を撒き、水面近くに寄ってきたカツオを釣り竿で一尾ずつ釣り上げるという伝統漁法である。一尾ずつ釣り上げると言っても、大勢の船員が矢継ぎ早に竿を入れては引き上げを繰り返すため、普通の釣りのイメージとは違う。祭りを思わせるような激しい雰囲気が漂い、漁師も心なしか楽しそうに映る。そのため、どこか人間と魚の戦いという雰囲気が漂い、トロール網漁法みたいなものと比べると、はるかに自然で人間的な感じがする。
ところが、このドキュメンタリーが作られた80年代初頭には、一本釣りはすでに過去の漁法になりつつあり、巻き網漁の漁船が席巻し始めていた。巻き網漁というのは複数の漁船で魚群を取り囲むようにして、魚群を文字通り一網打尽にする漁法である。この漁法の場合、大量に獲物を採ることができるが、一方で網を使った漁法は、海洋資源を根こそぎにする可能性があり、持続可能性という観点で考えるとかなり問題がある。しかも巻き網漁では、魚群をまるごと捉えることになるため、根こそぎの度合いは激しい。一本釣りの場合はどんなに釣り上げても1つの魚群のせいぜい30%程度であるというから、巻き網漁の環境に対する影響はかなり大きいと言わざるを得ない。
で、一本釣りの佐賀勝丸の方は、一本釣りの船で船団を作って魚群情報を共有しているのだが、この情報が巻き網船に漏れると魚群が一網打尽にされてしまうため、魚群情報は暗号を使ってやりとりされている。要は、一本釣り漁船対巻き網船の戦いになっているわけである。さらには、巻き網船で大量に採れるせいか、カツオ自体も値崩れしており、一本釣り漁船はますます厳しい経営を強いられているというのが、このドキュメンタリーの背景である。
このドキュメンタリーでは、スタッフが実際に第23佐賀勝丸に同乗して、漁の様子、あるいは船上の生活の様子などを追っているため、視聴者にとっては職業体験みたいな要素も出てくる。そのためもあり、どうしても一本釣りの方に肩入れしてしまうが、効率性を考えると、いずれは消滅する漁法かなという気もする。もしかしてすでになくなっているんじゃないかとこのドキュメンタリーを見ながら思ったほどである(実際は減ってはいるがまだ存続しているらしい)。
テーマはかなり地味で、映像的にもあまり派手さはないが、問題の所在が明確に示されているだけでなく、テーマも(一本釣りだけに)一本筋が通っていて好感が持てる。何より実際の漁の映像に迫力があって、いつまでも見ていたくなるような面白さもある。地味だが非常に質が高い作品であると思う。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『土佐・四万十川(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『特集とスペシャルの間』竹林軒出張所『北の海 よみがえる絶景(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『里海 SATOUMI 瀬戸内海(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『海の畑(ドラマ)』竹林軒出張所『ありあまるごちそう(映画)』