国家主席 習近平
(2023年・NHK)
NHK-総合 NHKスペシャル
過去の足跡から
習近平の思想的背景を読み取る 中国の国家主席、習近平の来し方を紹介するドキュメンタリー。
習近平は、公の席で自らのことをあまり語らないためにやや謎めいた存在になっているが、過去に発表した政治論文が割合残されていることから、それを通じて思想的背景がある程度読み取れる。また、若い頃、地方の要職に就いていたこともあるため、その頃の記録や著述も残っている。したがって、そういった周辺の二次資料を使えばある程度の人物像を描けるという目論見が、この番組製作の背景になっている。
僕自身はまったく知らなかったが、習近平の父親は共産党の幹部だったため、習は二世政治家ということになる。ただ一方で、文化大革命のときに父親が政敵にされたことで、習自身も下放(地方の農村に送られ労働を強いられる制度)されており、若い頃はかなり苦労したというような側面も持つ。そのときに地方に残る貧困を撲滅しなければならないと決意を新たにしたらしい。
その後、政界に復帰し、地方の役職に就くことになるが、そのときに目の当たりにしたのが天安門事件で、それが習にとっては文化大革命に通じるもの、つまり野放図な若者の暴動に映ったらしく、「民主主義」に対する嫌悪感、恐怖感が心の中に定着したのだとこの番組では解釈する。そのために、「民主主義」を訴えるものに対しては、秩序を維持するために断固とした態度をとって弾圧するという現在のような態度が芽生えたとする。
同時に、世界中で尊敬される強い中国の復活にも意欲を燃やす。中国はアヘン戦争や西洋列強の侵略のために100年以上も虐げられてきており、欧米の影響を排除して、元来の強い中国を復活させるのが自らの使命と感じているフシもある。台湾への強硬な態度もその一環ということなのである。
このような強引な父権制に基づいた強い中国の復活というのが習の描く理想像であって、そのために邁進しているのが今の習近平の姿だというのが、このドキュメンタリーでの解釈である。解釈自体は筋が通っているためおそらく真実に近いと思うが、一方でこういう強権な人間が独裁体制を強いている大国は、周辺国にとっては大きな脅威である。習が政権を掌握している限り、周辺国との間で現在のような緊張関係が続くことになる。中国には、周恩来の時代みたいに「大人の国」になってもらいたいものだが、いずれにしても独裁が続く限り、為政者によって国内・国外が大きな影響を受けるような政治体制が持続するわけである。それ自体が大きな問題であるのは変わりない。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『中国 デジタル統治の内側で(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『文化大革命50年 知られざる“負の連鎖”(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『天安門事件(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 20(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『家族と側近が語る周恩来 (3)(4)(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『シリーズ毛沢東(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『日中外交はこうして始まった(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『日中2000年 戦火を越えて(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『総書記 遺された声(ドキュメンタリー)』