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竹林軒出張所

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『嘘と政治と民主主義』(ドキュメンタリー)

嘘と政治と民主主義 —アメリカ 議会乱入事件の深層—
前編:“トランプの共和党”へ

後編:不信と分断の連鎖
(2022年・米Kirk Documentary Group/WGBH)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

アメリカ型民主主義が崩壊の危機に晒されるまで

『嘘と政治と民主主義』(ドキュメンタリー)_b0189364_08372211.jpg 2021年1月に起こった合衆国議会議事堂襲撃事件は、米国の民主主義の根幹を揺るがすような大惨事であった。このドキュメンタリーでは、この事件に至るまでの過程をトランプ前大統領の就任から辿り、トランプの倫理を欠いた悪行と、それに追随した大多数の共和党議員の愚行を紹介し、なぜこのような反民主主義的な事件が起こったかを解き明かす。
 トランプはこれまでも、自分の一派が何かのレースに負けると、不正のせいで負けたと主張するような非常に子どもっぽいことをたびたび行ってきており、2020年の大統領選挙でも、ご多分に漏れず選挙で不正が行われたとがなり立て、それに同調した愚かな支持者が議事堂を襲撃したのがあの事件である。そしてそのトランプの独裁を招いたのが、トランプに反旗を翻すことをためらったほとんどの共和党議員の自己保身志向ゆえであるとする。
 元々トランプは、これまでも米国に内在していながら社会的に拒絶されていた差別主義的な極右勢力の主張を認め、彼らを日の当たる場所に引き出すことで支持者を集めてきたと、このドキュメンタリーでは主張している。もちろんトランプ自身も同様の志向を持っており、大統領時代、平和的な抗議集会に対して軍を動員し「鎮圧」に乗り出したりもしている。
『嘘と政治と民主主義』(ドキュメンタリー)_b0189364_08372519.jpg 一方でトランプは、(ガキ大将のように)自身に敵対するものをすべて排除しようとするため、共和党議員の間でも、トランプに反対する姿勢を示す者は次々に追い落とされてきた。そのため、トランプに対して嫌悪感を持っていると思われている議員までトランプにすり寄る有り様で、周りはイエスマンばかりになった。一部のマスコミもこれに追随し、暴力的な支持者たちも含めて、さながら独裁国家のような様相を呈していたのがあの時代である……と、この番組では振り返っている。
 このように、議事堂襲撃事件に至るまでにすでにその芽はあり、それを予防する手立てはあったのだが、しかし自己保身の政治家のために最悪の事態に至った……とするのがこのドキュメンタリーの主張である。確かに大筋では合っているんだろうが、トランプが相当数の支持を集めたのも事実で、単に有権者が騙されたとして片付けるのは説得力に欠ける。トランプがろくでもない人間であることは確かで、それを阻止できなかった政治家たちの責任は問われるべきだが、さらに詳細な分析をしなければ事の本質はなかなか見えてこないのではないかと思う。実際、今回の一連のトランプ関連の騒動で米国の民主主義は相当な危機状態に陥っていて、今後の展開次第では内戦さえ起こりかねないような状態とも言える。それくらいトランプの問題は大きかったということである。とりあえずトランプを収監して事情聴取し、相応の処罰を下すこと、そして子どもっぽい愚かな国民に、何がいけないことなのかをわからせることから始めるしかあるまい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ジェニファーは議事堂へ向かった(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『華氏119(映画)』
竹林軒出張所『“強欲時代”のスーパースター(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“黒幕”バノンの戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“フェイクニュース”を阻止せよ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『プーチン 戦争への道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『プーチンの復讐 前・後編(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2023-06-28 07:36 | ドキュメンタリー
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