素敵なダイナマイトスキャンダル
(2018年・「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会)
監督:冨永昌敬
原作:末井昭
脚本:冨永昌敬
出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子、木嶋のりこ、嶋田久作
風俗事情のおかしみが最大の魅力か 末井昭の自伝『素敵なダイナマイトスキャンダル』を映画化した作品。
末井昭という人、知らない人は知らないだろうが、80年代、90年代に大ヒットエロ雑誌(『ニューセルフ』、『ウイークエンドスーパー』、『写真時代』など)の編集を手がけて、有名になった人である。猥褻罪(物頒布等罪)で摘発されることたびたびで、結局『写真時代』はそれが原因で廃刊になったらしい。猥褻罪といっても、今見ると何が猥褻なのかわからない程度のもので、それを思うと、そもそも何のための猥褻罪だったのかわからなくなる。公序良俗を乱すと言っても「猥褻」図画が本当に社会にとって害悪になっているのか怪しいもので、むしろ社会のためになっているんじゃないかとも思えるが、いずれにしてもこういう馬鹿げた法律のために『写真時代』は廃刊になったのだそうだ。もっともこういった雑誌は、猥褻罪があったからこその成功(完全オープンだったらこういう雑誌の価値がない)とも言えるのでなかなか難しいところ。いずれにしても、末井昭の雑誌がかなり攻めていたのは事実である。
僕自身は『写真時代』はまったく読んだことはなく、『ニューセルフ』も発刊当時は存在を知らなかった。唯一購読したことがあるのが『ウイークエンドスーパー』で、この雑誌、映画雑誌を謳っていたが、その実エロ雑誌という代物。ただ映画評などは割合しっかりしており(対象はポルノ系の映画がほとんどだったが)、しかもまだ名前が出る前の荒木経惟が写真家として起用されているなど、今振り返るとサブカル雑誌としてはなかなかの線を行っていたように思う(もっともアラーキーの写真なので、エロさについてはもう一つで、むしろ汚らしい感じが強かったような印象がある)。
この映画でも、その周辺の事情は当然扱われ、荒木経惟をモデルにした登場人物も出てくる。風俗事情に漂うおかしさも当然描かれ、そのあたりが一番の見どころと言える。一方で、末井の母親が不倫相手とダイナマイト心中したという背景も、ドラマとしてメインのストーリーに挿入される。この話は末井昭の特異的な背景であり、タイトルの「ダイナマイトスキャンダル」もここから取られたものだと思われる。
昭和の風俗事情がしっかり描かれるため、そういうものに興味があれば非常に楽しめるが、興味がなくても風俗事情はどこか笑えるような要素がつきまとう。大の大人がバカバカしいことに大真面目に取り組むあたりがおかしいのかわからないが、今村昌平監督作品の映画、
『エロ事師たち』にも似たような雰囲気が漂っていたんで、おそらくネタとしての面白さが大きいのだろう。
ストーリーは破綻なく、キャストも上手い人が揃っているため、ストーリーに没入することができる。主役の柄本佑は、末井昭を彷彿とさせる風貌でなかなかの適役であった。なおこの映画のテーマ曲は、末井の母親を演じた尾野真千子と末井昭のディエット曲(「山の音」)である。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『アダルトビデオ革命史(本)』竹林軒出張所『愛の新世界(映画)』竹林軒出張所『初恋・地獄篇(映画)』