悪党 潜入300日 ドバイ ガーシー一味
伊藤喜之著
講談社+α新書
ガーシー騒動の実像に迫る 世間で話題になっている東谷義和(ガーシー前参議院議員)の身辺を描いたドキュメント。著者は、元朝日新聞ドバイ支局長で、自身が作成した東谷のインタビュー記事を朝日新聞が不掲載にしたことがきっかけとなって、朝日新聞を退職した人。
本書では、その東谷のインタビュー記事を始め、東谷周辺の人々にも接近してインタビューを敢行しており、しかも東谷のドバイでの生活にもかなり密着しているなど、東谷のことを知りたい人にとっては充実した内容になっている。
東谷義和とは、皆さんご存知だろうが、詐欺罪で警察に逮捕されることを恐れてUAEに逃亡し、そこで暴露系ユーチューバーとして有名になって、終いには参議院選挙で当選して参議院議員にまでなってしまうというジェットコースターのような人生を送っているあの「ガーシー」のことである。結局、参議院に一度も登院しなかったことから除名され、挙げ句に強制送還されて逮捕されたのは、先日報道されたとおりである。世間の報道では、この東谷、数々の詐欺を起こしながら開き直り、下品な悪口雑言で有名人に絡んでは、ユーチューブで儲けているとされているが、人物像をはじめ、詳しいことはあまり知られていなかった。そこでこの男に接近しようとしたのが、当時ドバイ在住だった著者である。まず新聞記者として東谷に接近し、同時に彼の周辺の人物にも接近して、インタビューを行った。それを20の章に分けてまとめたのが本書である。
僕自身は、著者がこの本で東谷に物理的にかなり接近している(たびたび一緒に食餌もしているようである)ことから、この本はあるいは東谷に対する裏切りの本かとも思ったが(体よく接近してその内部事情を悪意を持ってばらすというような)、決して裏切りではなく、取材対象者である東谷に対して、比較的冷静に人として接しているという印象を受ける。そのため、東谷をはじめ周囲の人々に対しても、人格を尊重しているという姿勢が見られる。そのため本書では、報道機関や世間の印象から少し離れた、比較的実像に近い人物像が形作られているのではないかと思う。本書で、東谷と、こういった周辺の人々をまとめて「一味」と呼んでいるのも、東谷が好きな『ワンピース』の「麦わらの一味」をもじっているためで、実は一種の敬意がそこには入っている。つまり、世間の見方のように、必ずしも「極悪非道の男」という扱いではないのである。
東谷については、人を寄せ付ける魅力があり、しかも元々ユーチューブを始めたのも、詐欺の被害者に対する賠償目的ということで、必ずしも根っからの悪党というわけではなさそうに映る。タイトルが「悪党」となっているのも東谷の自称によるものである。また、いろいろと事業も積極的に行ってきており、好き嫌いはともかくとして、事業の才覚もそれなりにあるようである。そういう意味では等身大の東谷を伝えることには成功している。逆に世間で作り出されている、凶悪犯罪者で攻撃的というイメージが、必ずしも事実を反映しているわけではないことにも気付かされる。僕などは、今回強制送還されて逮捕されたことはむしろポジティブに捉えていたが、必ずしもそうとも言えないのではないかという気がしてきた。僕自身が、マスコミに作り上げられた「ごろつきの凶悪犯」というイメージに踊らされていたのかも知れないと感じている。もちろん僕自身は、東谷の映像を見たこともないし、行ってきたことが正しいとも思わないが、保守的な政治家連中からスケープゴートにされているという気もする。そういう新しい見方が提示された本ではある。
★★★☆参考:
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