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竹林軒出張所

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『エルピス』(1)〜(10)(ドラマ)

エルピス -希望、あるいは災い- (1)〜(10)
(2022年・カンテレ)
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平

放送業界のへたれ体質を描き出した
意欲的なドラマ


『エルピス』(1)〜(10)(ドラマ)_b0189364_08281328.jpg 冤罪事件として知られる「足利事件」をモチーフにして、それを取り巻く放送業界のへたれ体質を描き出した意欲的なドラマ。TBSの佐野亜裕美というプロデューサーと脚本家の渡辺あやの共同企画だったがTBSで受け入れられず、その後カンテレに持ち込んで実現させたという作品である。不祥事の多いカンテレが作ったドラマと考えると意外なモチーフに思えるが、裏にそういういきさつがあったわけである。
 これまでテレビであまり取り上げられることのなかった放送業界の内幕もの、しかも現在の放送の恥部を描くものであるため、放送時から一部で話題になっていたが、視聴率はそれほど奮っていたわけではない。ただしドラマの内容は、昨今の陳腐なドラマの水準のはるかに上を行くもので、演出もプロットも非常に出来が良い。プロットについては(足利事件をモチーフにしていることもあり)ドキュメンタリーを髣髴させるようなもので、迫真的であり、作りのいい加減さや嘘くささがないのも良い。
 主人公は、大洋テレビの新米ディレクター(眞栄田郷敦)と同局の女子アナ(長澤まさみ)で、その2人が過去の冤罪事件の真相解明に乗り出し、そこから起こってくるいろいろな問題や騒動を描くというドラマである。新米ディレクターがマザコンだったり、女子アナが、局から干された状態で拒食症だったりと設定に厚みがある他、事なかれ主義の上層部の抵抗に遭うなど、一筋縄でいかない展開にリアリティがある。
『エルピス』(1)〜(10)(ドラマ)_b0189364_08281754.jpg 最終回のプロットについては疑問符が付くようなものもあった他、ナレーションや音楽が多いことに抵抗はあるが、全体的によく作り込まれており、最後まで見続けさせるダイナミズムもあった。中でも主演の2人、長澤まさみと眞栄田郷敦の好演に驚いた。今どきのテレビドラマでこれだけの演出ができるんだという驚きである。また、整理整頓が苦手な「首都新聞」の記者(池津祥子)、「麻生太郎」然とした副総理(山路和弘)、パワハラ/セクハラ・プロデューサー(岡部たかし)など、キャラクターが一面的でなくどれも秀逸で(モデルがいるんじゃないのと思わせる)、シナリオもよく練られている。
 今のテレビ局、しかもカンテレでもこれだけのドラマができるというのは新たな発見である。安倍・菅政権が君臨して好き放題やっていたときにこのドラマをぶつけるくらいの気概があれば、放送局の評価はさらに高まっていたんだろうが、問題の政権がなくなった後だとしても、いち早くこれを製作・放送したのは十分評価に値する。一方でTBSが二の足を踏んだというのは逆にだらしない話に聞こえ、いつまでもゴミドラマを作り続けるが良いなどと悪態をつきたくなってしまう自分がいる。
 少なくともこういうモチーフのドラマを作っても構わないということが(業界内で)わかったわけであるから、もしかすると今後他の放送局からも、タブーとされてきたことに対して一歩踏み込んだドラマが出てくるかも知れない。そういう意味では、ドラマ製作の新しいスタンダードになった可能性のある作品であると言える。
第60回ギャラクシー賞テレビ部門大賞
第73回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『殺人犯はそこにいる(本)』
竹林軒出張所『騙されてたまるか 調査報道の裏側(本)』
竹林軒出張所『“冤罪”の深層(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『正義の行方(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ブレイブ 勇敢なる者(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『DNA捜査最前線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『さよならテレビ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑(本)』
竹林軒出張所『同調圧力(本)』
竹林軒出張所『i —新聞記者ドキュメント—(映画)』
竹林軒出張所『新聞記者(映画)』
竹林軒出張所『何が記者を殺すのか(本)』
竹林軒出張所『ブラックボックス(本)』

by chikurinken | 2023-05-10 07:26 | ドラマ
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