雪国 -SNOW COUNTRY(2022年・NHK)
原作:川端康成
脚本:藤本有紀
演出:渡辺一貴
出演:高橋一生、奈緒、森田望智、高良健吾、由紀さおり
ストーリーはわかりやすいが
駒子のセリフ回しに違和感がある 川端康成の
『雪国』をドラマ化した作品。
『雪国』はドラマ、映画とこれまで繰り返し映像化されており、何を今さらという感覚もあるが、原作に忠実に作ったのであればそれはそれで価値があると感じる。もっとも、今回のドラマ版『雪国』が原作にどの程度忠実なのか実のところ僕にはわかってはいない。
『雪国』は若い頃原作も読んだし
岸恵子主演の映画も見たが、実は内容をほとんど憶えていない。そのため、原作がどういう話でどういうストーリー展開なのかよくわかってはいないのだが、今回のドラマではセリフの言葉遣いが「いかにも」な古風さを持っているため、原作のセリフをかなり生かしているのではないかと感じている。一方で、主要な登場人物である駒子の口から明かされていく彼女の過去が、やや虚言めいていて何が本当だかわからなくなり、こんなストーリーだったかなと感じることもしばしば。駒子のキャラクターもこんなだったかと疑問に思うことも多かった。しかも最後の最後に駒子の言葉を集めて話の流れを具体化したミステリーの種明かしみたいなシーンが出てきたりする。こういうのは原作には無かったような気がするが、一方で、この種明かしのために、ストーリー自体はきわめてわかりやすくなっている。わかりやすくはなっているが、違う『雪国』になってしまっているような気もする。僕の記憶では、駒子はもう少し軽い存在だったように思うが、このドラマの駒子はやけに重かった。こういう内容であれば『雪国』も自然主義文学になってしまう。
キャストはそれなりだったが、駒子を演じた奈緒という人のセリフ回しが良くない。古い言葉遣いで「……ですわ」みたいな表現があるが、随所に違和感を感じる。昔の映画やドラマなんかを見てこういうセリフ回しを勉強すればもう少しきれいな言葉使いになるんじゃないかと思うが、古風なセリフ回しと相まって全体的に言葉だけが浮き上がっており、妙な違和感がある。ただ、駒子が三味線を弾いたり歌ったり踊ったりするシーンがあり、こういうシーンは一見すると非常にリアルで、撮影に当たってそれなりに練習を重ねていることが窺われる。とは言うものの、やはりドラマのリアリティはセリフをはじめとする演技にあるのであって、ドラマの中で演技さえしっかりしていれば、踊りや歌は吹き替えでも構わないわけだ。ともかくセリフ回しの違和感はドラマにとって致命傷になる。ドラマはセリフから……ということ。
ということで、駒子の異様さが目立ったドラマだったという結論になる。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『雪国(本)』竹林軒出張所『伊豆の踊り子・温泉宿 他四篇(本)』竹林軒出張所『伊豆の踊子(映画)』竹林軒出張所『古都(映画)』竹林軒出張所『山の音(映画)』竹林軒出張所『めし(映画)』竹林軒出張所『三島由紀夫×川端康成(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『思い出の作家たち(本)』竹林軒出張所『私が愛する日本人へ(ドキュメンタリー)』