チロルの挽歌(1992年・NHK)
脚本:山田太一
演出:富沢正幸
出演:高倉健、大原麗子、杉浦直樹、河原崎長一郎、西岡徳馬、金子信雄、岡田英次、佐野浅夫、芦川誠、田中義剛、白島靖代、菅井きん
キャラクターはどれも魅力的だが
ストーリーに難がある
高倉健と大原麗子が主演の山田太一ドラマ。この作品が作られた頃、高倉健は「映画の人」でテレビにめったに出ないという時代だったため、ドラマ出演自体が非常に珍しかった。一方の大原麗子は
『タクシー・サンバ』、
『それからの冬』以来の山田ドラマ出演ということになるんだろうか。なお、高倉健と大原麗子の共演は映画『居酒屋兆治』以来になる。
ストーリーは、東京本社に務めていた電鉄会社管理職(高倉健)が突然、同社による北海道のテーマパーク開発の担当者に任命されるというところから始まる。その後、赴任先の町で、自分と子どもを置いて他の男と駆け落ちした元妻(大原麗子)およびその相手(杉浦直樹)と偶然出会うという展開になる。
北海道のテーマパーク建設という背景などはなかなか異色で面白い題材ではあったが(そのために僕の期待感も大きかったのだが)、ストーリーは偶然頼みのやや安直なもので、正直言ってあちこちで首をかしげてしまうようなものだった。セリフ回しもややぎこちなく、他の山田ドラマほどの自然さがなかったのも気になる。
ただ、高倉健が、(高倉健のイメージ通り)寡黙ではあるがそういう自分を変えて饒舌になるため努力する男、しかも妻に逃げられた男を演じるなど、キャスティング上の面白さはある。高倉健については、舞台が北海道だけに
『駅 STATION』や『幸福の黄色いハンカチ』、
『遙かなる山の呼び声』を思わせるようなシーンも出てきて、しかも同じような恰好で出てきたりする。おそらくああいう映画を意識した上での演出ではないかと思う。彼が演じる電鉄会社管理職も魅力的なキャラクターで、ドラマの見どころの一つになっている。
また、大原麗子のやや身勝手だが芯の強い女性や、杉浦直樹の後ろめたさを前面に出した男も魅力的で、さらに言えば市長の河原崎長一郎や商店会長の金子信雄、頑固な牧場主の岡田英次も非常に魅力的なキャラクターである。このあたりのキャラクター設定は山田太一の真骨頂と言って良い。
やはり難があるのが何度も言うがストーリー展開で、かなりご都合主義的に映る。そういう点で山田ドラマとしては(キャラクター設定が素晴らしいだけに)少々惜しい部類に入る作品である。もしかしたら高倉健の久々のドラマ出演ということもあって、山田太一が少し気張りすぎたのかも知れない。阿部寛がチョイ役(エキストラのような役回りでセリフは1つだけ)で出演していたのも、今となってはキャスティングの見どころと言えるかも知れない。
第29回ギャラクシー賞奨励賞受賞
★★★☆参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『再会(ドラマ)』竹林軒出張所『秋の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』竹林軒出張所『遙かなる山の呼び声(映画)』竹林軒出張所『日曜劇場 それからの冬(ドラマ)』竹林軒出張所『タクシー・サンバ (1)〜(3)(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 ひとり(ドラマ)』『チロルの挽歌』OP主題曲