近年、NHKの看板ドキュメンタリー、
『NHKスペシャル』の質が著しく低くなってきたと感じる。
大げさなタイトルの割に内容が乏しいものが多い他、「専門家」の話に依存した番組なども多く、そのために思い込みに支配されているような偏狭な内容のものもある。製作者の感性を疑ってしまうような妙ちきりんな演出も多々見られ(
『超・進化論』は特にひどかった)、すでに『NHKスペシャル』は「末期状態」を迎えているのかと感じてしまう。
思えば、『NHKスペシャル』の前身であった『NHK特集』は優れものの番組が多かった。僕がドキュメンタリーをよく見るようになったきっかけも『NHK特集』だった。現在もNHK-BSプレミアムで
『NHK特集・選』という番組枠で過去の『NHK特集』が放送されていて、うならされるような内容のものが多いと感じる。デイブ・スペクターがかつてABCテレビで日本の番組の買い付けをやっていたとき『NHK特集』の面白さに驚いたと以前テレビ番組で語っていたことからもそれが窺われる(*1)。
もちろん過去の傑作と現在の通常枠の番組を比較するのはフェアではないかも知れないが、それでも『NHK特集』と比べると近年の『NHKスペシャル』の水準はあまりに低く、まさしく「劣化」ではないかと感じる。僕の印象では、2010年代から特にひどくなったという感じで、政権の介入のせいで番組作りがつまらなくなったということもあるだろうが、NHKという組織自体にも問題があるんじゃないかと思う。今のようなレベルの番組を作り続けるのであれば、そろそろやめても良いんじゃないかと感じる。『タモリ倶楽部』ではないが「役割は終わった」と言えるんじゃないか(*2)。
NHKは他にもグレードの低い番組が増えていて、近年製作者としての「劣化」を感じさせられることが多い。人材を広く(成績優秀者以外にも)集めた上で、ある程度自由な番組作りをスタッフにさせなければ、それこそ放送局としての役割が終わることにもなりかねないと思う(*3)。NHKには奮起を期待したいが、『スペシャル』についてはもう期待しない。特集とスペシャルの間の差はそれほど開いているのであった。
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*1:『EXテレビ』の討論企画で語っていた内容。なおその際、他の出演者(西川のりおなど)から「NHKの番組なんかおもろないわ」などと集中砲火を浴びており、それに対してデイブ・スペクターが「見たことないからわからないんだ」とぼやいていた。僕も彼と同意見だったため、このことはよく憶えている。
*2:流浪の番組『タモリ倶楽部』は40年に渡って放送が続いていたが、23年3月いっぱいで終わるらしく、その発表の席で製作者が「番組としての役割は十分に果たした」と語っていたらしい。この製作者が『タモリ倶楽部』の「役割」をどういうものだと思っていたのかは不明ではあるが、そもそもテレビ番組に(ましてや娯楽番組に)社会に果たすべき役割など必要なのか(あるいはそもそも存在しないのではないか)とも思う。
*3:一方でEテレで放送されている『ETV特集』などは質が高いものが多いと感じる。製作者としての余力はまだあるのかも知れない。
参考:
竹林軒出張所『里海 SATOUMI 瀬戸内海(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『病の起源 第1集 がん(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『黒潮の狩人たち(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『鯉師(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『スズメバチの恐るべき生態(ドキュメンタリー)』