消えた故郷へ帰るとき 〜高知・椿山 50年の記録〜
(2023年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集
無くなると取り返しがつかない
貴重な生活様式がそこにある
愛媛県との県境に近い高知県の山間部、仁淀川町(旧・池川町)椿山(つばやま)は、平家の落人が住みついたと言われる山里だが、数年前に住民が完全にいなくなったために、いわゆる絶滅集落になった。
この集落は、これまで焼き畑をしながら農業や林業を営むというやや変わった形態の産業があったために、1976年にNHKの『新日本紀行』でも紹介されている(
『新日本紀行「焼畑〜高知県池川町椿山〜」』)。当時は100人以上の住民がいたのであるが、この数十年の間に住む人は誰もいなくなった。日本の都市集中および過疎化の現実を見せつけられるような状況である。
ところが、この地で育った中内さんという人が、再び実家に戻って一人で住み始めたのだった。すでに60歳を超え、それまで勤めていた会社を辞めて、妻子を高知市内に残して単身で移り住み、かつてこの地で営まれていた方法で農業を始めたのである。実はこの中内さん、『新日本紀行』にも高校生として登場しており、当時の生活に直に接していた一人でもあった。高知市内で就職し、市内に家を建てて家族を設けたが、椿山の生活への思いが断ちきれず、舞い戻ったというのである。

こうして住民が一人だけという集落が復活したが、やがて他の住民も(定住はしていないが)戻ってくるようになって、かつてのような生活が少しだけ戻ったのである。そして、親の代に行われていた養蜂やコンニャク作りまで復活させている。祭礼も一部行っており、こういう人々の子どもの代に継承しようという動きもあるようだ。
ドキュメンタリーとしてはそれほど奇異なストーリーはないが、これまで累々と続けられて、一度は途絶えたが今また復活されようとしている一地域の山間の生活が非常に興味深く、僕はそこに民俗学的な価値の高さを感じたのだった。こういった生活様式は、残せるものであれば残してほしいと感じるような、地に足が着いた素晴らしい生き方のようにも映る。そういう意味でも、今回のこの放送は『新日本紀行』の映像ともども大変貴重で、高く評価されるべきと思える立派なドキュメンタリーに仕上がっていた。良い作品であった。
★★★★参考:
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