中国 デジタル統治の内側で
~潜入・新疆ウイグル自治区~
(2019年・英Hardcash Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
収容所社会はあまりに不気味で息苦しい
中国政府が新疆ウイグル自治区で展開している圧政を告発するドキュメンタリー。
この地域はウイグル族が住む地域で、永らくいろいろな王朝によって支配されてきているが、イスラム教徒が多いなど現在の中国の中ではやや異質な地域で、それはチベット自治区とも共通する。そのため反政府運動を極度に恐れる中国政府によってひどい弾圧が行われている地域の1つである。
特に2010年頃からテロ事件が続発し、中でも2014年に習近平が同地を訪問した直後にテロ事件(ウルムチ駅爆発事件)が起こったことから、中国当局は弾圧を強化することになった。当局は、漢民族の同地への移住を促進すると同時に、監視カメラなどのデジタル技術を駆使してウイグル族に対する監視体制を強化するという政策をとるようになる。これには実は内地のIT企業を誘致してさまざまな監視技術の実践場としてウイグル自治区を提供するという背景があったようで、結果的にこの地域の監視体制は異常なほど発達(?)してしまった。当局が監視装置を通じて少しでも不審と思える行動を見つけると、すぐにその当事者が連行され強制収容施設に入れられてしまい、思想教育が行われるという状況になっている。実際には不審な動きがなくても収容施設に入れられ「行方不明」になってしまうこともあるわけで、人権もへったくれもあったもんじゃないというのが現在の新疆ウイグル自治区の状況である。

この状況を、漢人の協力者(ウイグル人だとすぐに目を付けられるため)が起業家を装って同地を訪れ、隠しカメラを使ってその状況を撮影し、内情を報告したのがこのドキュメンタリーである。テクノロジーを駆使した21世紀の監視国家がこういうものであるということがよく伝わってくる。デジタル技術を独裁者の監視のために活用すると、これほど息苦しい非人間的な社会が実現してしまうということがよくわかる。こういう抑圧体制はすぐにでも消えてもらいたいと感じるが、これだけ監視が厳しいと反体制運動を展開するのも難しそうである。収容所社会の恐ろしさがひしひしと伝わってくる、優れたドキュメンタリーである。
2020年国際エミー賞最優秀時事番組受賞
★★★★参考:
竹林軒出張所『あなたの顔は大丈夫?(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『国家主席 習近平(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『完全密着 消えた物証を追え(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『強いられた沈黙 前・後編(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『あなたの健康データは大丈夫か(ドキュメンタリー)』