映像の世紀プレミアム 第21集
太平洋戦争 銃後 もうひとつの戦場(2021年・NHK)
NHK-BSプレミアム
愚かな政府は愚かな国民が支えるのだ
『映像の世紀』の映像をテーマごとに再構成した『映像の世紀プレミアム』。第21集のテーマは、太平洋戦争。これが放送されたのが2021年12月だったことを考え合わせると、開戦80周年の企画だったんだろうと思う。またその後、『映像の世紀プレミアム』が放送されていないことを考えると、この第21集が最終回だったようである。
テーマは「銃後」ということで、戦争の最前線ではなく、日本国内にいる庶民の意識がテーマの中心になる。ただ庶民といっても、激戦の舞台になったテニアン島の住民の話や、兵士の手記なども登場するため、完全に庶民の意識のみに特化したというわけではない。
登場する映像の多くは、戦時中に映画館で放映された『日本ニュース』のものが多く、概ね時系列で紹介されていく。開戦時には、市民の生活もまだ比較的余裕が感じられるが、戦争が進むにつれて、いろいろな強制が市民に働き、徐々に息苦しくなっているように映る。学校や社会でも軍部が礼賛されるようになり、軍部の検閲が入った『日本ニュース』も軍部礼賛、嘘八百ばかりになる。市民の側も竹槍訓練や防火訓練、隣組などに駆り出され、徴用されたり慰問袋を作らされたりまでしている。率先してやっている人間も大勢いたようではあるが。
支配下に置いたインドネシアでも、現地住民に日本の市民に対するものと同じような生活を強い、強制的な日本語教育や徴用まで行っていて、それが『日本ニュース』で嬉々とした調子で伝えられている。当時日本軍は、インドネシア人をオランダの支配から解放するなどと謳っていたが、実際のところは、さらに苛烈な支配体制を築いていただけで、インドネシア人の反感を買うのも必至と言える。軍部があちこちで展開していることは、全体的に非常に鈍感という印象があり、そのために映像を見ているだけで胸糞が悪くなる。
テニアン島での集団自決の話も出てくるが、米軍の捕虜になった日本人住民の待遇が良かったというのが印象的で、ある米軍兵士の発案で、捕虜の子どもたち向けに学校まで作られたという話は、感動的ですらある。もっとも、テニアン島から、日本全土を空襲したB29爆撃機や、広島に原爆を落としたエノラ・ゲイが飛び立っていったという負の側面も当然存在し、一面のみから語ることは簡単にできない。一筋縄ではいかないのが戦争の現実であると思い知らされる。
なお、戦争が終わると、途端に『日本ニュース』は論調を変え、従来の強圧的な態度から視聴者に媚びるような「民主主義」的な態度に変貌する。GHQの検閲が入っているせいらしいが、あまりの手のひら返しに(そう見えるんだが)呆れてしまう。
戦争中、くだらない奴らが威張っていて不愉快だったという話をよく聞くが、それは『日本ニュース』の映像からも窺われ、ああいった鈍感で愚かしい時代が復活しないでほしいと痛切に感じた。もっともここ10年ほど、くだらない奴らが威張っている時代が続いていて、僕自身は、大変不快な気持ちを抱き続けていたのは事実なんだが。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実(本)』竹林軒出張所『カラーでみる太平洋戦争(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『小野田元少尉の帰還(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『マンゴーの樹の下で(ドラマ)』竹林軒出張所『ハワイ・マレー沖海戦(映画)』竹林軒出張所『1942 大日本帝国の分岐点(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『1943 国家総力戦の真実(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『1944 絶望の空の下で(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『“玉砕”の島を生きて(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 1(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 2(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 4(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 7(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 8(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 12(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 13(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 15(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 16(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 17(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 18(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 20(ドキュメンタリー)』