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竹林軒出張所

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『ハワイ・マレー沖海戦』(映画)

ハワイ・マレー沖海戦(1942年・東宝)
監督:山本嘉次郎
脚本:山崎謙太、山本嘉次郎
特殊技術監督:円谷英二
出演:伊東薫、藤田進、河野秋武、原節子

海軍の宣伝映画

『ハワイ・マレー沖海戦』(映画)_b0189364_08174680.jpg 「戦後、占領軍がこの映画を最初に目にしたときに、特撮シーンが実写であると勘違いした」などという伝説がある映画である。ちなみに特撮を担当したのは、戦後『ゴジラ』や『ウルトラマン』で名前を馳せる円谷英二。そういう噂を耳にしていたため、永らく見たいと思っていた作品である。
 ただ実際に見てみると(時節ゆえではあるが)一般的に言われているように国策映画の枠を出ない。「国策映画」というよりも、むしろ海軍の宣伝映画のような作品である。
 ある地方在住の子ども(中学生ぐらいか)が、親戚の海軍士官学校生に憧れて、自身も海軍飛行予科練習生(予科練:少年航空兵の教育制度)になりたいと志願し、やがて無事合格。その後、予科練で鍛えられ、一人前の飛行機乗りになって、真珠湾奇襲攻撃で戦果を挙げるというストーリー。だがその後、なぜだか、この主人公とまったく関係ないマレー沖海戦も長々と出てくるという、整合性がまったくとれていない脚本である。それに予科練のシーンが、さながらスポ根アニメのようにきわめて美しく描かれているが、「がんばりがあればなんでもできる」というセリフが示しているように、本質的には根性主義が前面に押し出されており、しかも生徒を鍛える教官たちも厳しいが善意の人として描かれる。すべてが実に嘘っぽい作り物である。映画に反映された偽善的な体質は、見ていて不快ささえ感じる。最後に延々と流される軍艦マーチもいただけない。
 ストーリーはまあ置いといて、僕にとっての目玉はやはり特撮シーンであったため、真珠湾攻撃やマレー沖海戦のシーンに注目することになるわけだが、こちらも実写と見まがうばかりということはなく、あくまで特撮映画の範疇を出ない。後の時代の『トラ・トラ・トラ』に比べると、致し方ないが所詮は作り物という感じである。もしかしたら「特撮シーンが実写であると勘違いしたという伝説」自体も、あるいは軍の生き残りによる宣伝文句の一種だったのかも知れない。そうするとこの映画、何もかも宣伝で終始している映画ということになるのか。本作を見るのであれば、そういう心構えが必要である。なお、リマスター版ということもあり、この時代の映画に特有の画面の揺れもなく、映像が非常にきれいに仕上がっていた。唯一の長所である。
第19回キネマ旬報ベスト・テン第1位
★★

参考:
竹林軒出張所『トラ・トラ・トラ(映画)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 21(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 13(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『1942 大日本帝国の分岐点(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ゴジラ(映画)』
竹林軒出張所『ふたりのウルトラマン(ドラマ)』

by chikurinken | 2022-10-19 07:17 | 映画
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