ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『老人支配国家 日本の危機』(本)

老人支配国家 日本の危機
エマニュエル・トッド著
文春新書

相変わらず安直なトッド本
借りて読むのにちょうど良い


『老人支配国家 日本の危機』(本)_b0189364_21085310.jpg こちらは、昨年2021年に発刊された文春新書。エマニュエル・トッドの著作集・対論集である。例によって、他の場所(多くは『文藝春秋』)で書かれた評論を集めたもので、トッドの鋭い意見が散見されるにもかかわらず、本自体には作り手の哲学がまったく感じられない。それに最後の方に、タレント学者、磯田道史、本郷和人との対談まで収録されていて、いかにもやっつけ仕事という印象は拭えない。
 そもそも文春新書からこういう本が立て続けに出されるのは、トッドの評論やインタビューが『文藝春秋』にたびたび掲載されるためで、日本でトッドの評価が高いこと(あるいは文藝春秋社の中に熱烈なファンがいること)と関係しているんだろうと思われるが、それにしても文春新書のトッドのシリーズはことごとく安直さを感じさせる。
 Ⅰ「老人支配と日本の危機」、Ⅱ「アングロサクソンのダイナミクス」、Ⅲ「「ドイツ帝国」と化したEU」、Ⅳ「「家族」という日本の病」の4部変成になっており、各部のテーマに合わせて数編の評論・対論が集められている。本書のタイトルは「老人支配国家 日本の危機」となっているが、それに該当する部分はⅠとⅣだけであり(しかもⅣは磯田、本郷との対論)内容とそぐわない。このあたりも安直さを感じさせる。
 また、どの稿も他で概ね語られていることばかりで、目新しさもあまりない。今回図書館で借りて読んだが、少々拍子抜けしたという印象である。トッドの語り口は面白く、翻訳もトッドの著作の中では比較的良い方だったが、文春の安直な本作りが鼻につく。借りて読むのにちょうど良い本と言えるかな。
★★★

参考:
竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』
竹林軒出張所『西洋の敗北(本)』
竹林軒出張所『グローバリズム以後(本)』
竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる(本)』
竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』
竹林軒出張所『シャルリとは誰か?(本)』
竹林軒出張所『トッド人類史入門(本)』
竹林軒出張所『トッド 自身を語る(本)』
竹林軒出張所『トッド 混迷の世界を読み解く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『トッド グローバリゼーションを超えて(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『第三次世界大戦はもう始まっている(本)』

by chikurinken | 2022-09-23 07:08 |
<< 『ブルシット・ジョブの謎』(本) 『第三次世界大戦はもう始まって... >>