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竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『潜入ルポ amazon帝国』(本)

潜入ルポ amazon帝国
横田増生著
小学館

アマゾンは世界経済に巣くう癌である

『潜入ルポ amazon帝国』(本)_b0189364_07460020.jpg 『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』(以下を参照)の著者による、再びの「潜入ルポ」。バイトとしてアマゾンのピッキング現場に入り、2週間体験したということだが、これを「潜入ルポ」とするタイトルにはいささか違和感を憶える。これは前の著書でも同様で、このピッキング作業は、基本的にほとんどの応募者が採用されているらしく(それくらい現場が劣悪で人手が足りないということだが)、誰でも入って出られる場所を「潜入」と言ってしまうのはいかがなものかと思う。ただし、今回の「潜入」では、ピッキング現場の問題点をかなり鋭く突くことができている上、配送センター内で起こっている問題点、つまり劣悪な環境や死亡事例までレポートできているため、有意義な「潜入」とは言える。ちなみにこの「潜入」は、全10章のうち、第1章のみで終わっている。そういうことからもタイトルに「潜入ルポ」と入れてしまうのは無理がある。
 とは言え、この本では、アマゾンの問題をかなり多角的に追及できており、そういう点では優れた著書と言える。本書で追及されているアマゾンの問題点は、労働環境の問題(第1章、体験ルポの部分)、過剰な隠蔽体質が死亡事故を生んでいる状況(第2章、被害者遺族や関係者へも接触している)、配送業者に過重な重荷を課している状況(第3章、これは『仁義なき宅配』で告発されていた内容と一致する)、英国、フランス、ドイツでの事情(第4章、労働組合を結成し不当な労働条件に対抗している)、マーケットプレイスでの問題性(第6章、突然アカウントを凍結したり契約条件を勝手に変えたりすることでマーケットプレイス参加者を締め上げている)、フェイクレビューによる詐欺(第7章、アマゾン店舗内の問題)、アマゾンの脱税(第9章、多国籍企業の常として架空の本社をタックスヘイブンに作り巧妙に「節税」という名前の脱税を繰り返している。現在ヨーロッパ、アメリカの各州で問題視されている)、日本の出版界がアマゾンによって被った被害(第10章、単にシェアを奪われたというレベルではなく、日本の出版界が破壊されている)というようなものである。ちなみに、第5章は創業者ベゾスの周辺とアマゾン創業・発展時の事情などで、第8章はAWS〈アマゾンウェブサービス〉の事情である。AWSは特に重要な事項で、というのは、アマゾンの本書執筆時の利益は、ほとんどがAWSとマーケットプレイス、アマゾンプライムによって生み出されており、小売業は収益をあまり生み出していないためである。つまり、あれほど出版界(出版社、著者、販売業者)や流通業者に大混乱をもたらし市場を破壊し尽くしたアマゾンの小売業が、利益を生み出さず、他の事業の単なる呼び水にしかなっていないという事実がある。周辺のものをどんどん破壊し吸収している巨大な塊が、その実、中身がまったくないというブラックホールみたいなものだったというわけだ。
 さらには、アマゾンの一番の問題性は、その優位的な地位を利用して、労働者や取引先などの関係者に無理難題をふっかけることで、犠牲にしていく、場合によっては破壊して食い物にしていくというあくどい体質にある。しかも周辺のものをことごとく従属させ、奴隷化していこうとする。結局のところ、生み出されるのはアマゾンの資産のみで、それを考えるとアマゾンは、既存のものを破壊し尽くした上で何も生み出さない癌のような存在であることがわかる。
 前著『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』は、最終的にバイト体験記で終わり、それこそ何も生み出していなかったが、あれから15年して、著者はついに、アマゾンの問題点を告発する書をものすことができたわけである。本書については、前著と違って、さまざまな文献も活用しながら、関係者へのインタビューも積極的に行っており、十分読ませる内容になっている。また同時に、アマゾンの問題性だけでなく危険性(あえてこういう言葉を使うが)についてもよく把握できるようになっている。
 先ほども言ったが、アマゾンは、現代の経済にとって癌であると言える。このまま既存のインフラを破壊し尽くして、やがて大爆発して消滅し、後には廃墟しか残らなかったということが数年後、あるいは十数年後に起こるのではないかと感じられる。行政による正当な課税や取引業者による対峙、労働者の正当な主張などによって、本来あるべき姿に戻らなければ、現在のようないびつな体制やシステムが今後も継続するのは間違いない。消費者の方も、「送料無料・翌日配達」がそもそもあり得ないものである(誰かが犠牲になっている)ということを認識し、正しい消費行動をとるよう心がけなければならないということである。僕自身は、今後、他で入手できないもの以外、アマゾンで買うのはよすことにする。
★★★★

追記:
 これまで、本稿のタイトルにアマゾンへのリンクを付けてきたが、これはあくまで参照の意味で付けていた(付ける)ものであり、アマゾンでの購入を勧めるものではないということをお断りしておく。アマゾンの書籍・CDデータベースとしての価値が見逃せない上、そのデータベースを利用することはアマゾンの利益を生み出さないため、当座は現状維持で行こうと思う。決してリンクを辿ってそのままアマゾンで購入しないでいただきたい。買おうと思う場合は、同じタイトルのものを他の業者で検索していただきたいと思う。

参考:
竹林軒出張所『アマゾンは詐欺の巣窟』
竹林軒出張所『仁義なき宅配(本)』
竹林軒出張所『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した(本)』
竹林軒出張所『まっ直ぐに本を売る(本)』
竹林軒『百円ショップを巡りながらこう考えた』
竹林軒出張所『低価格時代の深層(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『模倣品社会 ~命を脅かすコピー商品~(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『東京自転車節(映画)』
竹林軒出張所『電通マンぼろぼろ日記(本)』
竹林軒出張所『消費者金融ずるずる日記(本)』

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 以下、以前のブログで紹介した同じ著者の『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』に関する記事。

(2005年7月31日の記事より)
潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影
横田増生著
情報センター出版局

『潜入ルポ amazon帝国』(本)_b0189364_19441520.jpg Web書籍・CD販売業のアマゾンに、出荷担当(ピッキングという作業)として下働きし、ベールに包まれているアマゾンの秘密を白日の下にさらそうと奮闘したルポ。タイトルでは「潜入」となっているが、どちらかといえば「体験」に近い。
 アマゾンは秘密主義を貫いているようだが、Amazon USAのピッキング現場は、テレビでも取り上げられているし、正直なところそれほど目新しくない。「光と影」というタイトルから想像できるように、アマゾンの暗部を照らし出すのが著者の目的のようだが、「下働きが時給900円でストレスの多い作業をさせられている」というだけでは、あまり(告発としての)説得力はないと思うが。ストレスは多いかも知れないが、比較的楽な仕事のようにも思えるし、時給900円ってそんなにひどいかな? 職場が近くならやっても良いなと思ったぞ。
 最後の方で山田昌弘著の『希望格差社会』を取り上げて、アマゾンの労働システムと日本社会の弱肉強食化(またはグローバリズム)を結びつけようとしているが、これもどうかと思う(そもそも『希望格差社会』の主張自体が眉唾だ)。今から20年ほど前、私もアルバイターをやっていてあちこちの職場を渡り歩いたが、アマゾンのピッキング現場くらいの条件はいくらでもあった(「オレは機械じゃねえや」と思ったことなんかしょっちゅうだ)し、賃金だってもっと安かったよ。
 アマゾンがろくでもない企業で本当にあくどいことをやっているんだったら今後利用するのをやめようと思っていたが、そういう期待には、残念ながらこの本は応えていない。もっとも読み物としてはそこそこ楽しめる。あくまでもアマゾン・バイト体験記としてね。
★★★

by chikurinken | 2022-09-14 07:45 |
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