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竹林軒出張所

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『ビルマ 絶望の戦場』(ドキュメンタリー)

ビルマ 絶望の戦場(2022年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

ビルマの作戦司令部は
いち早く戦地からトンズラしていた


『ビルマ 絶望の戦場』(ドキュメンタリー)_b0189364_21233818.jpg 1944年、ビルマ(現ミャンマー)から山間部を越えてインドのイギリス領インパールを攻略しようという目的で大日本帝国陸軍によって敢行されたのが、世に言う「インパール作戦」。兵站を考慮に入れないあまりに無謀な愚策として有名で、数万人の犠牲者を生み出した(このドキュメンタリーによると犠牲者は3万人)。
 このドキュメンタリーで扱うのは、インパール作戦自体ではなく、その後のビルマ情勢である。当時ビルマを占領していた帝国日本は、英国の逆襲に遭い、北部から徐々に英国軍の侵攻を受けた。このドキュメンタリーによると、その間、1944年以降から終戦までの1年間で、約10万人の犠牲者が出たという。例によって、ビルマの国内でも無謀な作戦を兵士および民間人に強いたことが最大の原因である。しかも、司令部の上級将校は、日夜、ラングーン(現ヤンゴン)で芸者遊びに興じていたことが、当時の士官や下士官の記録から窺われる。その上、驚くことに英軍が迫ってきたときに、ラングーン死守を部下に命じながら、自分たちはいち早く隣国に撤退していたというのだから恐れ入る。さすが帝国陸軍である。
 このドキュメンタリーによると、当時、敗色濃厚だったことが明らかで、しかもインパール作戦が失敗だったことも明らかだったため、いつまでも無謀な作戦を継続しなければ被害はもっと少なく抑えられたらしい。そう簡単に撤退できたのかどうかについてはにわかに断定できないが、実際に戦力は英軍10に対し帝国日本軍は1~2程度、しかも制空権も完全に握られている始末で、まともな司令部であれば、早々に降伏すべき状況ではある。帝国陸軍の精神主義、根性主義、ご都合主義、保守主義、利己主義などが絡み合って、犠牲者を増やす結果になったのは間違いなく事実であろう。もっとも犠牲者の多く(軍人)は、現地人を無差別に殺したり略奪や強姦を行ったりしていたという事実もある。愚かな人間が運営する集団は、モラルを欠いた行為を行い、やがては自らを破滅に導くということがここから見てとれる。
 もっとも日本の精神主義、根性主義、ご都合主義、保守主義は今でも根強く社会に横たわっていて、あちこちで犠牲を生み出しているのも事実。NHKも、こうやって番組内で過去の問題点を告発するのは大いに結構だが、自分たちの今の組織内や、そこに多大な影響を及ぼし続けている今の政界についても、もっと探って暴き出してほしいものだと感じる。今の問題に対して腰が引けているマスコミなど、まったく存在価値がないのであるよ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実(本)』
竹林軒出張所『クワイ河に虹をかけた男(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『戦場にかける橋(映画)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『野火(映画)』
竹林軒出張所『ゆきゆきて、神軍(映画)』

by chikurinken | 2022-09-02 07:23 | ドキュメンタリー
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