インポッシブル・プロジェクト
インスタントフィルムを復活させた男
(2021年・独襖Instant Film/Mischief Films/ARRI Media)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
アナログ技術の復活に奮闘する魅力的な男の話
かつてポラロイドカメラという商品があって、小学校時代、同級生が熱く語っていたことを憶えている。ポラロイドカメラというのは、普通のフィルムカメラと違って、撮影した後すぐに写した写真ができあがるという商品で、インスタントカメラという呼び名が一般的な名称のようである(「ポラロイド」は企業名であり商標名でもある)。
このポラロイドカメラ、デジタルカメラの普及とともに当然ながら少しずつ減少していき、とうとうポラロイド社がインスタントカメラの事業をやめてしまった。こうしてアナログ技術が一つ消え去っていったわけだが、こういう古い技術について愛着を持つ人々は当然一定数おり、再開を望む層も存在するわけである。
このドキュメンタリーの主人公であるオーストリア人のキャパスという人もそんな一人で、元々研究者であったが、金をかき集めて、廃業されるポラロイドの工場を買い取り、事業を継続させることにした。
とは言え、技術的な問題もあり、なかなか元々の性能を維持することができず、経営はまったくうまくいかない。夢だけでは商売はうまく行かないという実例にも見えるんだが、廃業が近くなったときに、社員として入っていた若者が事業を引き継いで、インスタントフィルムの改造を成し遂げ、何とか事業を継続することに成功した。そしてキャパスは、最終的にこの企業から出ていく形になった。考えようによっては、スティーブ・ジョブズみたいに自らの会社を乗っ取られたということになる。
だが、このキャパス、自身の仕事について後悔していないようで、今はアナログ機器や廃業したホテルの再生や普及の事業を推し進めており、復活請負人のようなことをやっている。アナログの魅力を今の若者にも伝えたいという動機らしいが、どうやら、さまざまな復活事業の種をまくという事業がお好みのようである。そういう点では、ポラロイドカメラの復活事業でも種をまく役割を果たしていたと言えるわけである。
なお、この新会社のカメラ用フィルムだが、当初はポラロイド社が商標の使用を認めなかったため、キャパスは「Impossible」という商標名を(会社名も)使っていた(その後ポラロイド社との間に提携関係が生まれて「ポラロイド」という名前も使えるようになった模様である)。タイトルの「インポッシブル・プロジェクト」というのは、そういう背景から、この商標名の「Impossible」を折り込んだものと考えられる。なかなか奮っている。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『写真日記』竹林軒出張所『昭和ちびっこ広告手帳(本)』竹林軒出張所『懐かしくて新しい昭和レトロ家電(本)』竹林軒出張所『70年代アナログ家電カタログ(本)』竹林軒出張所『あこがれの家電時代(本)』竹林軒出張所『昭和のレトロパッケージ(本)』竹林軒出張所『日本懐かしオーディオ大全(本)』