密着!中国受験街
~“高考” (ガオカオ) 運命の3日間~
(2022年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル
中国の異様な大学入試について
中国の大学受験事情。
中国の大学に入学するためには「高考 (ガオカオ)」という全国統一試験を受けなければならない。すべての大学の合否は、その試験の得点によって決まるらしく、そのために受験生はこの試験に全精力を傾ける。実際は、受験生だけでなくその親も必死であり、このドキュメンタリーに出てくる親は、子どもを長沙(ちょうさ)にある有名進学校に入学させ、しかもその学校がある街に子どもと一緒に引っ越してきたりして、彼らの受験勉強を支えているのである。学校の送り迎え(学校は夜11時頃まで自習のために開放されているらしい)や夕食の差し入れまで行うなど、親のサポートは至れり尽くせりで(しかも多くの親がやっている)、傍から見ていると「そこまでやるか」と感じる。同時に「過保護」などという言葉が頭の中に浮かぶ。
しかも本番の試験でも、会場の外で親たちが待機し、会場から出てきた我が子に花束を渡したりしている。明らかにやり過ぎに見え、少々不気味ささえ感じる。もっとも日本の事情もここまでではないにしろ、似たような状況があるのは確かである。傍で見る限りヘンなのは日中で共通であり、よその国の場合、その背景がよくわかっていないため、特に異様さや滑稽さを感じるというだけに過ぎない。1,193万人もの受験生がいて、一流大学を出ているかどうかが出世に響くとなれば、競争が激しくなるのももっともだろうし、一人っ子が多いという状況を鑑みると、親の方も黙っていられないということになるのだろう。そうは言ってもやはり異様に見えるのは確か。元々、一律の試験で官僚を採用するという試験制度(科挙)は中国で始まったもので、いわばこういう試験制度は中国が本家本元であることだし、一族が皆でサポートするのはそもそも科挙の伝統と言うこともできる。そういう要素が現代の大学入試にも残っているのかも知れない。

ただそうはいっても、何度も言うがやはりおかしな感じは残る。これだけの熱量で大学に合格しその後良い職を得られたにしても、それで満足の行く人生が送れるものなのかよくわからない。それにテレビにときどき出てくる中国の役人は、日本の官僚同様、事なかれ主義で組織を守る歯車みたいな人間ばかりに映る。そういう人生が本人にとって良いものなのか、もう少し冷静に考える方が良いんじゃないかと思うが、こういう話はもちろん日本の受験生にも当てはまるわけである。
なおこのドキュメンタリーでは、3組の受験生親子に取材し、試験まで密着する。NHKお得意のコンクールものやグレートレースもののような演出で(それもどうかと思うが)、異様さを告発するような類の番組ではない。念のため。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『中国 教育熱のゆくえ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『中国の小学校で今何が?(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『もっと頑張れる!(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『塾講師にだまされるな!(本)』竹林軒出張所『ブルシット・ジョブ(本)』竹林軒出張所『日本の異様な結婚式について(ラジオドラマ)』