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竹林軒出張所

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『さらば!ドロップアウト』(ドキュメンタリー)

さらば!ドロップアウト 高校改革1年の記録
(2022年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

高校のあり方に一石を投じる

『さらば!ドロップアウト』(ドキュメンタリー)_b0189364_08493189.jpg 退学者が70人以上いたという都立八王子拓真高校に赴任した磯村元信校長は、退学者を減らすために、教育方針を生徒本意のものにシフトさせた。学校に来ない生徒、休みがちの生徒に個別に対応することで、彼らが抱えている問題点を洗い出し、場合によってはカウンセラーを介し福祉に繋げるなどして、生徒中心の考え方を取り入れることで、退学者を半減させることに成功した。このドキュメンタリーは、その取り組みを紹介し、現代日本が抱える教育の問題点をあぶり出す。
 今の日本では、貧困やヤングケアラーの問題など、子ども自身が生活上の問題を抱えていることが多く、そのために学校教育に集中できずドロップアウトするケースが多くなっている。高校を中退すれば、その後の進路も限られてきて、結局貧困の連鎖を生み出すという問題は、昨今、メディアでもよく取り上げられるようになっているが、現実に対応するということになると並大抵のことではない。実際、子どもたちが高校をやめてしまうと、社会との最後の繋がりが途絶えてしまうことが多く、結果的にその子どもにとって取り返しのつかない事態になってしまう。こういう認識を持った磯村校長は、高校のシステムを変えて、子どもたちが抱えている問題に大人たちが向き合えるようにした。卒業できない生徒については、教師が総出で、補習や追加課題などで何とか対応して卒業させてやろうと取り組む。要するに、大人たちに不信感を持っていた子どもたちに、味方になってくれる大人もいるということを教え、社会との繋がりを維持できるようにするのである。また、そのために、生活の問題を解決するために福祉の専門家と結びつけることまでやる。
『さらば!ドロップアウト』(ドキュメンタリー)_b0189364_08493786.jpg こうした取り組みが功を奏して、退学者は減っていき、2022年にはついに30人になった。同時に磯村校長は定年を迎えることになるが、こういった取り組みが若い世代に引き継がれていけばというのが校長の願い……というところでドキュメンタリーが終わる。
 現代の日本の学校では、ほとんどの場合、主人公は学校の職員であり、生徒は鍛える対象くらいの位置付けで、そのためにいろいろな弊害が出ている。特に学校の職員の多くは、社会の問題に疎く、個々の生徒の問題すら気付いていないと来ている。本来の主人公は利用者であり、あくまでも利用者中心に運用されなければならないにもかかわらずである。病院など、それまで高圧的だった日本のさまざまな機関も少しずつ変化してきてはいるが、学校現場はいまだに、高圧的な教員が子どもたちを無理強いしながら威圧するというシステムが維持されている。この学校の取り組みや、千代田区立麹町中学校(竹林軒出張所『学校の「当たり前」をやめた。(本)』を参照)、大阪市立大空小学校(竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』を参照)の取り組みは、そういう旧態依然とした学校制度の限界と問題性を明らかにしながら、日本の教育が進むべき方向性を示唆していると考えられる。誰のための教育か、関係者にはもう一度考えてほしいと思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『日本の教育を変える!(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『こんばんは(映画)』
竹林軒出張所『学ぶことの意味を探して(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『僕に方程式を教えてください(本)』
竹林軒出張所『わたしをあきらめない(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『すべての子どもに学ぶ場を(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『高校中退(本)』
竹林軒出張所『学校の「当たり前」をやめた。(本)』
竹林軒出張所『まちがったっていいじゃないか(本)』
竹林軒出張所『学校って何だろう(本)』

by chikurinken | 2022-08-12 07:42 | ドキュメンタリー
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