ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記(2020年・沖縄テレビ)
監督:平良いずみ
撮影:大城茂昭
出演:坂本菜の花、津嘉山正種(ナレーション)
よそ者の視点で捉えた沖縄の基地問題
決して目をそらすことはできない
石川県生まれの女子(坂本菜の花さん)が、中学卒業と同時に沖縄のフリースクールに入学し、そこで沖縄の現状を見聞きしていく過程を追ったドキュメンタリー。元々はテレビ用のドキュメンタリーだったものだが映画化されたもので、その後、全国公開された(現在も公開中)。
僕自身、テレビ版を見た記憶がうっすらとあるんだが、ハッキリした記録がない。このブログにも書いていないんで、本当のところがよく思い出せない。少なくとも、フリースクールに通っていた頃の事情までは見た記憶がある。
菜の花さんが見聞きした事情というのは当然のことながら沖縄の基地問題で、特に彼女がフリースクールに在籍していた時期は、オスプレイの墜落事故やヘリコプター部品の落下事故が発生した時期と重なる。それから、沖縄県民の多くがこぞって声を上げていた辺野古埋め立て問題も焦点になる。菜の花さんは、当時、北陸中日新聞に沖縄の事情をコラムとしてまとめていたこともあり、実際に現場に足を運んで、そこに住む人々に話を訊いたりしている。そういった様子もこのドキュメンタリーでは映し出されている。
さらにフリースクールの在校生である(夜間中学に通っている)お年寄りたちに戦争体験を聞き、衝撃を受けたりもする。早い話、彼女の体験は、そのまま沖縄の事情をよく知らない、僕を含む多くの本土人がよそ者として見聞きするようなことなのである。この作品を見ている人は、彼女の五感を通じて一種の疑似体験ができるわけである。僕なども、沖縄の基地が大きな問題であることは重々理解していて、何とか解決できないか考えたりするが、現地の人々の問題意識とはやはり大きな隔たりがある。そのことを、この作品を通じて、思い知らされるのである。
一部の人々に重荷を押し付けてヨシとしているマジョリティと、犠牲にされて声を上げながら無視され続ける人々の構図は、日本中のあらゆる事象に存在し、それはいじめ問題とも共通する。菜の花さんは小学生時代に心ないいじめに遭ったらしいが、そういう彼女だからこそ、沖縄の基地問題の構図を正面から捉えられるのではないかと思う。そういった彼女の経験がそのままカメラを通じて捉えられているのがこの作品である。これだけの仕事をやってのけたこのドキュメンタリー作品のスタッフの仕事も称賛に値する。僕にとっては、目からウロコの作品であった。
2018年日本民間放送連盟賞報道番組部門優賞
第38回「地方の時代」映像祭グランプリ受賞
★★★☆参考:
竹林軒出張所『i —新聞記者ドキュメント—(映画)』竹林軒出張所『あの日、僕らは戦場で(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『砂川事件 60年後の問いかけ(ドキュメンタリー)』