「カルト宗教」取材したらこうだった
藤倉善郎著
宝島社新書
カルトを覗き見する 『やや日刊カルト新聞』を主宰する著者が、これまでのカルト宗教団体の取材経験をまとめた本。
登場するのは、「ライフスペース」をはじめとするさまざまな自己啓発セミナー、「セックス」教団「ラエリアンムーブメント」、「パナウェーブ研究所」、「ホームオブハート」、「ひかりの輪」、「幸福の科学」、「ベストグループ」、「統一教会」などである。直接、合宿に潜入取材を試みているもの(「ラエリアンムーブメント」)もある他、現地に赴いて取材しているものもある(「幸福の科学」の総裁、大川隆法の出生地(徳島県吉野川市川島町)でのもめ事など)。インターネットで検索してデータを集めたというようなものではないため、読み応えはそれなりにある。この取材結果は『やや日刊カルト新聞』で発表されているようで、そのために、カルト団体から記事の削除を求める脅迫まがいの通達もよく来るようだ。それに対する対処法についても第4章「カルトと報道」で詳細に語られている。
著者は、カルト団体の訴えのために家宅捜索を受けたこともあり、そのあたりの事情も詳述されている。ことの発端は、富山県にある「浄土真宗親鸞会」(一般的な「浄土真宗」教団とは異なる)というカルト団体が、著作権侵害で著者を訴えたことである。親鸞会がその正体を隠して大学の新入生を勧誘するときに使う冊子を、『やや日刊カルト新聞』で全文掲載していたことが著作権侵害に当たるとして刑事告訴したわけである。刑事告訴が受理されたために家宅捜索が行われることになったのだった。とは言っても、県警の担当者も状況がわかっていたようで決して積極的ではない模様で、著者の方も「捜索」に協力的な姿勢を取ったらしい。なお、著作権法では、事件性があるものについては「報道の目的上正当な範囲内において」複製できるというような条項があり、この事例はそれに該当するということから結局不起訴になったが、カルト団体の圧力手法の一つとしてこういう方法があるということがこの事例から窺える。
カルト宗教団体は今でも隆盛を続けており、いつまでもなくなることはないようでいまだに被害者が絶えないが、それを考えるとその内情を世間に伝える媒体は非常に価値が高い。近年はさまざまなカルト告発マンガまで出てきて、媒体の裾野は広がっているかに思えるが、一方で集英社が「幸福の科学」の抗議を受け、連載中のカルトマンガ(『「神様」のいる家で育ちました~宗教2世な私たち~』)を削除するというような日和見な対応をしたりする事例まである。メディア側の問題が大きいということも本書を通じて窺い知ることができるが、この集英社の事例などはそれを地で行く事件であると思える。カルトの闇は深い。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『自民党の統一教会汚染(本)』竹林軒出張所『「山上徹也」とは何者だったのか(本)』竹林軒出張所『決定版 マインド・コントロール(本)』竹林軒出張所『カルト宗教信じてました。(本)』竹林軒出張所『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話(本)』竹林軒出張所『カルトの思い出(本)』竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』竹林軒出張所『さよなら、カルト村(本)』