
先日、
中学の英語教科書のことについて書いたこともあり、自分が中学生だった頃の教科書を引っ張り出して(実はオークションで買ったんだが)比較のために中身を見てみた。驚いたのなんのって、僕自身、中学の英語レベルは、現在の方がはるかに難化していると思っていたが、以前の方がはるかに難しいし、ハイレベルと感じる。
僕がかつて通っていた中学校で使っていたのはニュープリンスイングリッシュコース(New Prince English Course)という教科書で、おそらく当時の公立中学校でかなり一般的な教科書だったのではないかと思うが、他の教科書でも、概ね同様の難易度だったと考えられる。これは前にも言ったように日本のほとんどの産業が横並びであるためである(教科書なんて特にだ)。したがって当時の一般的な教科書のレベルを反映していると考えられる。
まず目に付くのが、現在の教科書に出てくるスキット(会話文)が少ないということで、たとえば3年生の教科書に至っては、スキットが一切なく、すべてが読み物になっている(現在の教科書では、中1の最初の部分以外は、全単元がスキットで構成されている)。この3年生の教科書では、単元がLesson1からLesson14まで(現行教科書はLesson7まで)あり、それがUnit1からUnit7に分けられ、Unit 1. Review(復習)、Unit 2. Question Tags(付加疑問文), Infinitive(不定詞)、Unit 3. Present Perfect, Participle(現在完了形、分詞)、Unit 4 Relatives 1(関係詞1)、Unit 5 Relatives 2(関係詞2)、Unit 6 Relatives 3(関係詞3)、Unit 7 General Review(総復習)というタイトルが付けられている(なおタイトルに日本語訳は付いていない)。関係詞については関係代名詞の他、関係副詞まで入っている。それに使役動詞なども普通に出てきて、今の学習単元よりはるかに高度で、今の高校レベルの文法が入っている。読み物も多彩で、笑い話からほっこりさせるようなものまで、なかなか面白い素材が並んでいる。
また特に1年生の教科書について言えるのだが、教えるべき文法事項がストレートな文章が多いのも良い。たとえばLesson1は
a pen
a desk
This is a pen.
This is a desk.
Is this a pen?
Yes, it is.で始まり、Lesson2で
Is this an apple or a tomato?
It's an apple.と来る。be動詞の肯定文、疑問文という流れが自然である。簡単で良い。その後、Lesson3ではWhat is this?の構文が出て、前の単元で勉強した文型が繰り返される。単純な文章ばかりでやや退屈にも思えるが、少しずつステップアップしていく感じで、実に自然な印象を受ける。文章そのものを暗記すればすぐに使えるというのも良い。ちなみに1年生の教科書はLesson23まである。学習する文法事項は、be動詞、一般動詞、三単現、現在進行形、助動詞can、比較級・最上級と、今の中1より多いようにも思える。今の中1に入っている過去形とwillの表現(言ってみれば時制ということになるんだろう。当時はwillは「未来形」という呼び名で教えられていた)は2年生に入っている。先ほども言ったように、直球勝負といった内容で、今の教科書に見られる、奇をてらった感じがないのも好感が持てる。

中3教科書の(読み物を除く)最後の単元を比較してみると、今の教科書と当時の教科書のスタンスの違いがもっとはっきりわかる。昭和ニュープリンスの最後の単元はLesson11で(Lesson14まであるが、12以下は純粋な読み物という位置付け)、タイトルはThe Sheriff and the Violin(保安官とヴァイオリン)。内容は西部劇風(
『荒野の決闘』に似たようなシーンがあった気がする)で、中学生の読解力でもこれだけの内容のものが読めれば、生徒は自信をつけるんじゃないかという文章である。単語数は628語もある。一方の令和ニュークラウンの(読み物を除く)最後の単元はLesson7で、タイトルはFor Our Future(私たちの未来に向けて)。短いスキットが2本と読み物が1本。読み物の単語数は375語。スキットの方は両方合わせて100語ちょっとぐらい。

昭和版はほぼモノクロで、令和版みたいなカワイイ、フルカラーの挿絵はないが、一方で、令和版に感じるようなバカバカしさはなく、知性的な印象さえ受ける。親の立場からすると、昭和版の方がはるかに質が高いためこちらを選んでほしいところだが、どちらが生徒にとって効果的かはなかなか一概に言えない。実際僕自身、中3教科書の内容はまったく憶えていなかったのであるから(中2までの教科書は割合憶えていたが)。あるいは中3には少々難しすぎたのかも知れない。ただ、今の教科書を見ると、現代人の知性レベルが劣化しているような印象さえ受けるんだが、そのあたりどうなんだろうか。
参考:
竹林軒出張所『間違いだらけの教科書選び』竹林軒出張所『教科書を漁る』竹林軒出張所『史上最悪の英語政策(本)』竹林軒出張所『子どもの英語にどう向き合うか(本)』竹林軒出張所『東大VS京大 入試文芸頂上決戦(本)』昭和版New Prince3と令和版New Crown3(クリックで拡大)
