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竹林軒出張所

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『なぜ君は総理大臣になれないのか』(映画)

なぜ君は総理大臣になれないのか(2020年・ネツゲン)
監督:大島新
撮影:高橋秀典、前田亜紀
出演:小川淳也(ドキュメンタリー)

政治に対する情熱を阻害する
日本のムラ型の保守的政治土壌が描かれていて
大変興味深い


『なぜ君は総理大臣になれないのか』(映画)_b0189364_09005114.jpg 衆議院議員の小川淳也に焦点を当てたドキュメンタリー。
 小川淳也は、2005年に民主党比例区で初当選し、その後6期衆議院議員を務める、ある意味ベテラン議員だが、比例区当選が多く、選挙区では自民党二世議員になかなか勝つことができないでいる。そのために、党内では発言権があまりないと自身で歎いている。
 この小川、元々自治省の官僚だったが、2003年に突如辞め、香川一区から衆議院議員選挙に出馬した。妻が小川と同窓だったという因縁で、小川に関心を持った映像製作ディレクター、大島新が2003年から小川に密着して撮りためていた映像を1本の映画作品にしたというのがこの作品である。
 この小川という人、非常に熱い男で、政治が庶民のために動いていないことに疑問を感じ、庶民のための政治を実現すべく奮闘しているが、実際には党との関係やさまざまな人間関係が存在し、やらなければならない選挙活動も山積みで、なかなか自分の思うような理想を実現できていない。一方で、彼が所属する民主党は、その後、民進党と看板を付け替えたばかりか、小池百合子の希望の党と合流するなどという騒ぎがあったりして、政治理念の実現とは関係のない部分で活動しなければならなくなる。実際この映画でも、希望の党参加問題で逡巡する小川の姿が映し出され、一部の支持者からは愛想を尽かされたりする姿も映し出されている。一途で愛すべき人間ではあるが、政治みたいな面倒くさい人間関係の世界は向いていないのではないかと周囲からは漏らされたりもする。
 その後、希望の党自体が解党して、結局、無所属議員になり、その後立憲民主党の会派に入るというように経歴が変遷するが、一方で安倍政権の公文書改ざん問題に対して国会の場で鋭い追及を行ったことから一般にも注目されるようになった。映画では、そのあたりまでが描かれる。
 『選挙』と同様、日本の選挙の様子が描かれ、日本の異様な選挙、そして日本の異様な政治システムが描き出されていて、ドキュメンタリーとしては非常に秀逸である。また、しっかりした理念を持っている男が政治家として表舞台に出ることを阻害している日本のムラ型の保守的政治土壌も描かれていて、そのあたりも非常に興味深く見ることができる。
 ちなみに監督の大島新は、大島渚と小山明子の息子だそうな。だが、1本のドキュメンタリー作品として見ると、大島渚の作品よりもはるかによくまとまっていて、できが良いと感じる。テレビドキュメンタリー出身だからかも知れないが、編集が非常にうまいため、途中で飽きることがまったくない。小川淳也という素材も非常にユニークだが、映像作家としての大島新も期待を持たせる存在である。本作の続編として『香川1区』という作品も現在公開されているが、こちらにも大いに関心が湧くところである。
第94回キネマ旬報ベスト・テン文化映画ベスト・テン第1位
第30回日本映画プロフェッショナル大賞特別賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『本当に君は総理大臣になれないのか(本)』
竹林軒出張所『香川一区(映画)』
竹林軒出張所『れいわ一揆(映画)』
竹林軒出張所『選挙(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『選挙2(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『自民党で選挙と議員をやりました(本)』
竹林軒出張所『立つ女たち(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『貧乏人の逆襲! タダで生きる方法(本)』
竹林軒出張所『ロデオ 民主主義国家の作り方(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『女帝 小池百合子(本)』
竹林軒出張所『反骨の砦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『忘れられた皇軍(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2022-05-04 07:00 | 映画
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