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竹林軒出張所

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『グレタ ひとりぼっちの挑戦』(ドキュメンタリー)

グレタ ひとりぼっちの挑戦 前・後編
(2020年・スウェーデンB-Reel Films)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
監督:ネイサン・グロスマン
脚本:ハンナ・レヨンクヴィスト

21世紀のジャンヌ・ダルクも一人の少女だった

『グレタ ひとりぼっちの挑戦』(ドキュメンタリー)_b0189364_08485801.jpg 世界的に注目を集めた(当時)15歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリに密着したドキュメンタリー。今回見たのは、劇場版として公開されたドキュメンタリー映画、『グレタ ひとりぼっちの挑戦』の短縮版で、『BS世界のドキュメンタリー』の枠で前後編に分けて放送されたものである。
 グレタ・トゥーンベリと言えば、世界中の政治家に対し、地球温暖化にしっかり取り組めと訴える姿が印象的で、消極的な僕のような人間にとっては、こういうことをやってのけるだけですごいと感心してしまう。しかも、トランプみたいなごろつき政治家がSNSでグレタのことを揶揄しても、うまく切り返したりするなど、行動力だけでなく、その機知や熱心さについても、ただただ尊敬の念を持ってしまうのである。次世代の指導的立場になるべき存在であるのは間違いない。
 だが、そのグレタも、素顔は一人のティーンエイジャーに過ぎない。それがこのドキュメンタリーで描かれるのである。
 グレタも当初は、ただ地球温暖化の問題に黙っていられず、一人で議会の建物の前で座り込んで、政治家に対して早急に地球温暖化対策に取り組むべきと(小さな声で)訴え始めたに過ぎなかった。このドキュメンタリーでは、その当時の様子も映像に捉えられていて、今となっては大変貴重である。グレタは、学校を休み一人で座り込みを行っており、通りすがりの大人たちから、こんなことをやらずに学校の授業に出なさいなどと言われたりする。
 こういう姿を見ると、現在、ヒロインとして祭り上げられているグレタも、個人としては弱さを持つ一人の若者に過ぎないということが見えてくる。ここで紹介される他の映像でも、弱音を吐いたり、泣き出したりもする。学校でも、あまり友達がおらず孤立していると語っている。彼女のありのままの普通の姿が随所に出てくる。しかし同時に、彼女の想いは頑なであり、しかも真摯である。現代の各国の指導者たちが何もできていないことを追究するのだが、その指摘が本質を突いているだけに、多くの人々の共感を呼ぶ。その行動も活動も純粋であるために人々を惹きつけるのである。
『グレタ ひとりぼっちの挑戦』(ドキュメンタリー)_b0189364_08485398.jpg その後、世界中で彼女の活動が注目を集め始め、他の国の学生たちもグレタの運動に共感し、地球温暖化対策を求める「未来のための金曜日」の(学校を休んでデモを行う)運動に連帯するようになった。こうしてグレタは、現代の若者にとって、新しい偶像としてのヒロインになったのである。その後、さまざまな公の場で印象的な演説を行い、多くの人々に共感を呼び起こしている。まさにニューリーダーを予感させる存在になった。
 飛行機は温暖化に対して悪影響を及ぼすために利用しないなど、その行動も徹底している。そのため、国連に呼ばれたグレタは、ヨットで大西洋を渡ることになる。こういった素朴な原理主義も共感を呼ぶ。
 このドキュメンタリーでは、現在大きな注目を集めている一人の人間の強さと弱さが率直に描かれていて、そのあたりがこの作品の大きな魅力になっている。そもそもグレタ・トゥーンベリという人間が、なかなか魅力的で絵になる素材である。彼女は今後さらに注目を集める存在になるだろうが、その真の姿に迫ったという点で、この作品の映像は貴重であり、今後、グレタの影響力が増すとともに、その映像としての価値はますます増していくことは間違いあるまい。貴重なドキュメントである。
クリティクス・チョイス・ドキュメンタリー賞
シネマ・アイ・オーナーズ賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『CO2と温暖化の正体(本)』
竹林軒出張所『"脱プラスチック"への挑戦(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『海に消えたプラスチック(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2022-03-25 07:48 | ドキュメンタリー
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