ひとりじめ
浅田美代子著
文藝春秋
吉田拓郎は原宿ペニーレインあたりで
裕也派に殴られていた
樹木希林が死んで4年経つ。
『さよならテレビ』にも書かれていたが、樹木希林が死んだ後、数々の樹木希林本が登場した。本人は自分の人生を語るということを嫌がっていたために、これまでのインタビューなどをまとめたものが多かったようだが、どこか本人の「意に反して」という雰囲気が漂う。もっとも本人は生前「二次利用はご自由に」と言っていたので倫理的な問題があるわけではないが、どうも人の死に便乗して儲けようという姿勢が見えて、素直に受け入れられない。
さてこの本だが、樹木希林が死んでから3年後、つまり昨年出版された女優の浅田美代子の本で、樹木希林との交友や人となりが詳細に語られている点で、「樹木希林」本としてはもっとも優れたものの1つと言える。なんと言っても、浅田美代子と樹木希林は、TBSのドラマ『時間ですよ』(浅田美代子のデビュー作)で共演して以来、ずっと付き合いが続いている間柄で、樹木希林にとってはもっとも気の置けない関係であることが(本書から)窺える。浅田美代子の結婚、離婚のときも肩を押したらしいし、浅田の家族に対して説得したりもしており、ほとんど姉妹か親戚というような濃厚な付き合いである。ただし、濃厚とは言いながら、両者の関係はそれほどべったりしたものではなく、適切な距離感があったようで、それが両者にとって心地良かったらしい。
本書に書かれている内容は、浅田美代子本人のことから樹木希林のプライベートなことまで多岐に渡る。短編エッセイ26本の構成で、文章は素直で読みやすい。また、書かれていることが、樹木希林本人や娘の内田也哉子がドキュメンタリーの中で語っていることと符合するので、逆にそこから浅田と希林の関係の深さみたいなものも窺える。中でも面白かったのは、樹木希林の夫の内田裕也(の子分?)が、当時浅田美代子の夫だった吉田拓郎を(たぶん)原宿で殴った(らしい)話(内田は浅田とも親しかったが前々から吉田のことを気に食わないと思っていたらしい)とか、浅田美代子と父との関係(浅田は父を相当憎んでいたらしい)などの記述で、樹木希林の最期の1カ月間、病院にほとんど毎日行っていたという話(浅田がたまたまオフだったらしい)なども印象的である。
浅田美代子の人柄がよく出ている文章で読みやすく、樹木希林をはじめとして、周りの人々の人柄もよく描かれていて、暖かい雰囲気が漂うエッセイに仕上がっている。面白そうなところだけを拾い読みするような読み方もありだと思う。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』竹林軒出張所『さよならテレビ(本)』竹林軒出張所『神宮希林(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『樹木希林、東海テレビ作品三本(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『人生フルーツ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『樹木希林の居酒屋ばぁば(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『あん(映画)』竹林軒出張所『歩いても 歩いても(映画)』竹林軒出張所『海よりもまだ深く(映画)』